イベントレポート

【開催レポート】 ヨコラボ2023(YOKOHAMA Co-lab.2023)~市民協働の経験から見えてきた協働・共創の未来~

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【開催レポート】 ヨコラボ2023(YOKOHAMA Co-lab.2023)~市民協働の経験から見えてきた協働・共創の未来~

10月30日(月)~11月4日(土)、「ヨコラボ2023(YOKOHAMA Co-lab.2023)」が開催されました。
横浜市市民協働推進センターでは、初日の10月30日(月)、市庁舎1階アトリウムにて「次世代の公民連携」についてのオープニングトークセッションの後、「市民協働の経験から見えてきた協働・共創の未来」をテーマに、2部構成で市民と行政による「市民協働」の事例紹介、当事者によるパネルディスカッションを行いました。

1.オープニングセッション「次世代の公民連携ーヨコラボー」

セッションでは、市民活動を中心に多様な主体の協働や市民活動を支援する「市民協働推進センター」と、様々な共創やオープンイノベーションの取組で社会課題の解決を目指す「共創コンソーシアム」、この2者に加え、市内でのSDGsの達成に向けて、市内外の多様な主体が持つニーズとシーズをつなぎ合わせ、横浜における環境・経済・社会的課題を解決するための中間支援に取り組む、「ヨコハマSDGsデザインセンター」が登壇し、現在進み始めたばかりの「協働・共創の一体的取組への期待と可能性」をテーマに、それぞれの取組事例を共有しながら活発な意見交換が行われました。

印象的だったのは、まず、それぞれの「所感と期待」として、3者のような中間支援組織同士の更なる連携強化が必要ということで一致したこと、次に連携の可能性としては、やはりそれぞれの強みを活かした連携による社会課題解決が求められているため、相互理解が必須であること。

最後に、連携の広がりから見えてくる未来というテーマでは、やはりキーワードは”子ども”であり、子どもを中心とした視点を持って、さらに”子ども参加”による社会課題解決に取り組む必要があるという話になりました。

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オープニングトークセッションの様子

2.「市民協働の経験から見えてきた協働・共創の未来」

毎年、横浜市が取りまとめている協働事業数は約200事業。分野は市民活動・地域活動に関するものから、環境保全、保健福祉、まちづくりにまで及び、多彩な分野で市民活動団体等と行政とが協働し、社会課題や地域課題の解決に取り組んでいます。実践性から協働への理解を深めるパネルディスカッションでは、小学生を対象にした環境学習・防災教育の「港北水と緑の学校事業」、及び障がい児の兄弟姉妹の預かり保育に取り組む「きょうだい児の地域での支援」の2つの事例を取り上げました。

事例発表①「港北水と緑の学校事業」(特定非営利活動法人 鶴見川流域ネットワーキング)

20年近くにわたり、港北区との協働事業を続けてきた特定非営利活動法人鶴見川流域ネットワーキング(以下、TRネット)の阿部裕治さんに登壇いただきました。

鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)とは?
TRネットは、鶴見川とその流域において、流域地図の共有をすすめ、安全(safety)・やすらぎ(amenity)・自然環境(ecology)・福祉(welfare)重視の理念のもと、自然と都市の共生を可能にする流域の暮らしと文化を創造するため、流域視野の交流・学習・実践コミュニティーの形成を日常活動を通じて促すことを目的としている法人です。
河川環境の整備・保全、流域の健全な水循環の回復、水と緑のネットワークの保全・再生等に貢献し、水と緑・歴史・文化を軸としたまちづくり及び水辺等を利用した環境教育、福祉活動等を調査、研究、企画、提案、実践または支援し、更に市民・行政・企業間の多彩なパートナーシップを工夫・促進することも目的にしています。

会場で報告いただいた『港北水と緑の学校事業』は、港北区内の小学校が参加し、鶴見川に暮らす魚やカニなどの生きものとりと観察、全国に先駆けて流域治水や総合治水の考え方を実践してきた鶴見川流域水マスタープランの学習、商業施設や公共施設での展示会などを実施する事業です。
毎年1,000~2,000名近くの小学生が参加してきたこの事業。水害や水質汚染など、都市河川としてのイメージは決してよくなかった鶴見川に対する小学生の見方を大きく変え、足元の自然に触れてもらうことで、その豊かさを着実に伝えてきました。

また、忘れてはならないのは、河川管理者(国土交通省)による水辺の環境整備、市民団体による体験学習のサポートなど、鶴見川に関わる関係者による協働や理解があってはじめて、こどもたちが安心して生きものとふれあうことができるといった、水辺・緑の感動の三角錐の考え方です。

行政が安全な学習の場を整備する、市民団体・NPOがその場の魅力(自然など)をしっかり高め、訪問者の支援体制も工夫する。そんな「三角形」の領域に、それぞれにふさわしい年代の子どもたちを招待し、応援すれば、子どもたちは感動深い学習を体験し、それが、教員、行政も含む周囲の大人たちの環境意識、防災意識を高めてゆくはずだと、阿部さんはおっしゃいます。
2006年に、鶴見川で生きものをとった小学生たちは、既に成人になっています。彼ら彼女たちが育てる子供達が小学生へと成長し、鶴見川で生きものとりに参加することは、それほど遠い将来のことではないのかもしれません。

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「子どもたちの足元にある鶴見川での自然体験は、豊かな記憶を残します」と語る阿部さん

 

事例発表② ちょこっと子育てレスキュー隊の活動

続いて、NPO法人のはらネットワーク 乳幼児一時預かりさんぽ保育士の燕昇司知里さんより「ちょこっと子育てレスキュー隊」の取組についてのお話がありました。

“ちょこっと子育てレスキュー隊”とは?
子どもをちょっと預かってもらえる場があれば…という声にすこしでも何かしたいという思いで、都筑区で2019年から活動している任意団体です。
NPO法人のはらネットワーク、NPO法人りんぐりんくをはじめ、都筑区内の子育て支援団体や、保育サポーターなどの子育て支援者、都筑区役所などにより構成されています。
主な活動として、子育て支援団体同士の情報、課題共有や、支援の届きにくい場に出向いて行う出張一時預かり、療育センター内できょうだい児の預かりを行うきょうだい児保育、地域の方に向けて行う保育サポーター育成講座、支援する側・される側の垣根を超えてだれでも勉強会に参加することができる「だれでも勉強会」などを行っています。

「わたし達は協働事業というものにとても素人であったからこそ、今回の事例発表に選ばれたのではないかと思っています。」と語る燕昇司さん。「素人であった自分たちでも、周りの支援を得ながら自分たちの強みを再確認し、その強みを活かして協働事業に取り組むことができた」といいます。事業の内容だけでなくそれまでのプロセスがこれから協働事業に取り組む方の参考になるように、という視点でお話しいただきました。

「ちょこっと子育てレスキュー隊」による今回の市民協働事業は、NPO法人のはらネットワークが単独で、協働事業の助成制度(協働事業の提案支援モデル事業(市民局))に応募するために都筑区役所を訪れたことから始まりました。そこから、行政との話し合いを始めるも、はじめは課題に対する活動のための助成金が欲しい、という気持ちが強く、互いに協働として取り組める道筋がなかなか見えず苦戦しました。そのような中で、つながりのあったNPO法人りんぐりんくへ相談へ行き、「それなら一緒にやろう」となったことをきっかけに、ひとつの団体で課題解決に取り組むのではなく、「地域のネットワークを広げ、既存の仕組みを活かす」、「そこに行政も参加する」という考え方へシフトしていきました。

自分たちが元々持っていた地域や団体との関係、「横のつながり」こそが強みであることに気づいたことで、アンケートやヒアリングの結果や現場から見えてきた課題に他団体や行政と協働しながら取り組む、という形で事業をスタートすることができました。

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「想いと課題をもって行政の窓口をたたいたところからスタートした」と語る燕昇司さん

現在は、以下4つの事業に取り組まれていらっしゃいます。

①協議会
月1回程度開催。地域の支援団体が抱えている課題を共有することで、情報交換ができるだけでなく、新たな気づきやヒントが生まれます。構成メンバー以外でも同じ思いや課題を持っている方からの参加も受け付けています。

②出張一時預かり
子育て支援が届きにくいエリアへの出張型一時預かりを行っています。
アンケートから見えてきた、家の付近に預かり先や親子で過ごせる場所がない、という声をもとに、支援の届きにくいエリアをモデル地区とし、自治会町内会の協力で場所の提供を受けてスタートしました。子育て世代の方々が普段なかなか接する機会のない「地域」とつながるきっかけにもなり、お互い身近に感じられたのではないかと思います。

③きょうだい児保育
横浜市北部地域療育センターの場所を借りてきょうだい児保育を実施しています。
関係機関へのヒアリングから、北部地域療育センターに通う障がい児のきょうだい児の預かり先がない、という課題が見えてきたことから実施することとなった取組です。
行政では障がい児ときょうだい児の所管が異なることもあり、療育センターがきょうだい児を預かるには制度もノウハウも人手もない、という状態でした。そこで、ちょこっと子育てレスキュー隊が「協働事業」という形で、療育センターの建物の一室を借りてきょうだい児保育を行う、ということを提案しました。

制度と制度の狭間で見過ごされてきた課題の解決について、
「様々な行政機関との調整が必要で、協働事業だからこそ実施できたと思っています。今後は横浜市の事業化や、他の療育センターのモデル事業になることを期待しています。」と今後の展望についても語っていただきました。

④「保育サポーター育成講座」と「だれでも勉強会」
ちょこっと子育てレスキュー隊の保育を一緒に行っていただくサポーターを育成する講座です。以前一時預かり等の利用をしていた方が、「自分が助けられた分役に立ちたい」など、多くの方が参加してくれています。経験者だからこそ、子育ての楽しさや大変さが共感できるなど、温かい支援が広っています。

事例紹介の最後には、燕昇司さんから協働事業成功の鍵について、強いメッセージをいただきました。
「団体の強み、区の強みを活かすことで協働の未来が見えてきます。個人・団体・企業・行政のネットを編んでいく中で、取りこぼしのない支援策が生まれると感じています。」

パネルディスカッション

2部では、「特定非営利活動法人 森ノオト」理事長・北原まどかさんがモデレーターを務め、7名のパネリストの方々に市民協働推進センター伊吾田センター長も加わったパネルディスカッションとなりました。

<パネリスト>
「特定非営利活動法人 鶴見川流域ネットワーキング」事務局調査担当の阿部裕治さん
協働先である「横浜市港北区区制推進課」の笠原係長
「ちょこっと子育てレスキュー隊」から
「NPO法人 のはらネットワーク」理事長山田由美子さん、保育士の燕昇司知里さん
「NPO法人 りんぐりんく」理事長木村博子さん
協働先である都筑区こども家庭支援課高橋係長、緑区総務課武智係長

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最初にモデレーターの北原さんより「森ノオト」の活動と協働事例の紹介がありました。
その後、以下5つのテーマについて、団体・行政それぞれの視点、協働の視点から活発なディスカッションが進められました。
ここではディスカッションの中でお話しいただいた内容の一部と、そこから見えてきた協働のプロセスについて、ご紹介します。

①協働(出会い)のきっかけ、関係の作り方

【鶴見川流域ネットワーキング】
TRネットには、身近な自然での体験活動を通じて、子どもたちに足元の自然から地球と繋がってほしいという理念があります。この理念と、環境学習や防災への意識を子どもたちに提供したい港北区の思いが重なり合った結果、港北水と緑の学校が協働事業として生まれました。これまで、小学校との調整や丁寧な連絡・相談、河川使用の届出、当日の環境学習プログラムの構成まで、お互いの対話と連携を重視しながら信頼関係を築いてきました。

【ちょこっと子育てレスキュー隊】
自分たちが普段感じている課題感を何とか解決できないかと都筑区を訪れ、そこで協働事業の助成制度(協働事業の提案支援モデル事業(市民局))の存在を知り、応募につながりました。
はじめは、団体の「課題を解決したい」という強い「思い」が先行してしまい、協働事業としてなかなかまとまりませんでした。市民局や市民活動支援センター(当時)の支援で協働へのステップを学びながら、行政と協働できる方法を探りました。

【都筑区こども家庭支援課】
行政の側としても団体の思いはとても理解できる一方で、組織としてその思いに応えられる方法が見つからない…と、非常に苦悩しました。
その突破口となったのは、モデル事業を2年目に進めるための提案書提出の直前まで悩み、諦めそうになったところで、団体が「都筑区にはせっかくたくさんの子育ての団体があって、ネットワークがあることが強みだと思う。みんなでやったらいいんじゃない?」というアイデアをもらったことでした。
行政が一団体に助成をする、というような上下関係ではなく、都筑の子育て支援のネットワーク、その中に行政もいる、という、「対等」な関係としての「協働」の案が生まれたのです。そこから歯車がかみ合って「地域の課題を団体のネットワークで解決する、それを行政の強みをいかしてサポートする」という「団体・行政の双方が参加できる協働の形」として一気に提案がまとまりました。

②信頼関係を築けた瞬間

【鶴見川流域ネットワーキング】
港北区役所の職員の皆さんは足繁く現地を訪れて、時には子どもたちと一緒に鶴見川に入ることもありました。TRネットが独自に開催するイベントにも参加してくれて、私たちの思いの価値に理解を示してくれていると感じます。

【ちょこっと子育てレスキュー隊】
モデル事業の提案のプレゼンの際に、一緒に事業を検討してきた都筑区こども家庭支援課の係長さんが参加してくれた時です。審査委員からの質問に対しても「行政も応援してくれている、同じチームなんです」とアピールすることができ、「実現性が高い」と評価され、提案がトップ通過することができました。とても心強かったです。

③現在の役割分担

【鶴見川流域ネットワーキング】
学校との調整、事前の現場確認や整備、講座当日の運営、関係機関との調整を行っています。

【港北区 区政推進課】
学校への周知や区内への広報を担当しています。事業者さんの専門性があるからこそ効率的に事業を実施できているので、ただ役割を果たすだけではなく、共に事業を実施していくうえで、専門性や取組の内容をしっかり理解して共感すること、日ごろからコミュニケーションを図り良好な関係性を築いていくことが大切と考えています。

【都筑区 こども家庭支援課】
時期によって異なりますが、活動の中心は市民。行政は寄り添い、調整や橋渡しなど、困ったときにいつでもサポートできるようにしています。

④協働だからこその効果

【鶴見川流域ネットワーキング】
(行政の)経済的なサポートが大きいです。コロナや熱中症対策など、2者で判断することで、より安全性の高い計画づくりができ、対外的に信頼を得られやすくなります。

【港北区 区政推進課】
団体が有する専門性があるからこそ、地域へ効果的な自然環境及び防災への意識醸成ができています。

【ちょこっと子育てレスキュー隊】
行政が協働してくれることで、1団体では難しい様々な行政機関との調整をすることができました。また、一般の方に向けて講座等を行うときにも、行政との協働事業であることで、安心・信頼して参加していただけるのではないかと思っています。

【都筑区 こども家庭支援課】
地域での課題感は、現場で動いている市民(団体)が絶対的に把握していると考えています。地域の生の声を拾えるということは大きな強みだと思います。

⑤今後の話/「協働・共創」の可能性

【鶴見川流域ネットワーキング】
これまで、生きもの図鑑の発行を民間企業にご支援していただいたことがあります。その他にも、鶴見川の流域内外の企業の皆様から、支援をいただいてきました。企業から継続した支援がいただけると、活動の継続性や更なる発展性が見込めると思います。透明性と発信力が強みと考えていますが、日頃の活動自体がPRにもなっています。

【港北区 区政推進課】
団体と行政の2者に加え、取組に共感いただける企業や他団体との連携により、事業の継続性や充実につながると思います。

【ちょこっと子育てレスキュー隊】
きょうだい児保育について、横浜市には全部で9か所の療育センターがあり、同じ課題を持っていると認識しています。本取組の横展開を進め、それぞれの地域の方(団体)が療育センターで活動できるように、マニュアル化のようなことができるといいと思っています。
また、出張一時預かりに関しては、地域の理解に加え、質のいい保育をするためにはどうしてもお金が必要です。今回のお話の中で、企業の方と繋がって、活動を理解してもらい、支援していただくこともできるんだということを知りました。そうやって理解を得ながら様々な地域でもこの取組が広がるようになればと思っています。

また、ディスカッションでは、行政職員の異動による協働関係への影響についても話が及びました。
行政職員は3年程度ごとに異動があり、築いてきた協働の関係性が切れてしまうと思われがちですが、実はデメリットだけでなくたくさんのメリットがあることが、ディスカッションの中から伝わってきました。
団体視点として、阿部さんからは「異動があることでより多くの行政職員の方に団体の取組を知っていただくきっかけになり、繋がりが生まれると感じている。」
行政視点として、笠原係長からは「協働の経験や視点を持ったまま新しい職場に行くことで、協働のすそ野が職員側にも広がる。」
と、行政職員の異動についてポジティブな発言が続きました。

ディスカッションが進む中で、「地域の課題を行政やひとつの団体、組織だけで解決することは難しい、地域住民の専門性や行政のリソース、企業も一緒になって、多様な主体でつながっていくことが課題解決の糸口である。」
という言葉に、パネリストの皆さんが大きくうなずかれていました。

また、市民協働推進センター伊吾田センター長より、登壇者の皆さん、観覧いただいている皆さんに向け、今後のセンターの取組についてもお話させていただきました。
「市民団体と行政は時に言語が違うことがあり、そのような中でセンターには通訳的な役割が求められる。団体の強み(当事者性、独自性など)、行政の強み(公平性、社会的信頼性など)の双方を活かし、そこに企業など多様な主体も交え、協働へのコーディネートを進めていきたい。」

協働へのメッセージ

パネルディスカッション締めのメッセージは、

 

「協働って、楽しい!」

パネリストの皆さんの笑顔から、協働の楽しさが終始伝わるディスカッションでした。

ひとりではできなかったこと、1団体ではできなかったことが、つながることでできることが広がります。

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