
協働ステップアップセミナーVol.1「あなたの活動を”協働”で深める~研究者と活動実践者から見る 協働が社会にもたらすものとは~」 開催レポート
2026年6月3日(水)、協働ステップアップセミナーVol.1「あなたの活動を”協働”で深める~研究者と活動実践者から見る 協働が社会にもたらすものとは~」を開催しました。
横浜市市民協働推進センターでは、捉え方が広いゆえに曖昧になりがちな”協働”を、様々な視点から多くの方に理解していただく機会をつくっています。
今回は、法政大学名誉教授の名和田是彦さんと、株式会社イータウン代表取締役の齋藤保さんをお招きし、横浜における協働の変遷や社会の変化に加え、協働という手法がなぜ重要なのか、協働によって社会に何がもたらされるのか、ということを研究者と活動実践者の両方の視点から学びを深めるためのセミナーを実施しました。
開催概要
【日時】2026年6月3日(水) 14:30~16:40
【場所】横浜市市民協働推進センター スペースAB/オンライン
【登壇】名和田是彦氏(法政大学名誉教授)
齋藤保氏(株式会社イータウン 代表取締役/横浜コミュニティカフェネットワーク 代表/くらしまち
づくりネットワーク横浜 代表)

横浜における協働の展開
初めに、「横浜の市民協働のこれまでとこれから」というテーマで、名和田さんによる講義が行われました。

全国に先駆けて、市民・NPO・企業・大学と行政が連携する「市民協働」に先進的に取り組んできた横浜。1999年に策定された「横浜市における市民活動との協働に関する基本方針(横浜コード)」を土台としています。
横浜市の政策として、協働はどのように生まれ展開されてきたのでしょうか。
第一段階として、1990年代の高秀秀信元市長の下で「パートナーシップ型行政」への変化が起こったそうです。行政が公共サービスにおいてすべての責任を持つべきという流れの中で、「パートナーシップ」という言葉が登場し、市民協働の源流ともいえる政策が花開いた時期であったと振り返る名和田さん。
次の中田宏元市長の唱えた「非拡大成長時代」における政策の下では、行政運営の基本に「協働」が置かれるようになったと言います。背景には、「新しい公共」という政策があります。これは、これまで公共サービスをすべて行政が担うという従来の枠組みを打破し、国家や行政が差配していた公共をNPOやボランティア団体、企業などの民間も担うことを指します。
また370万人以上の人口と18もの区を抱える横浜市では、市民活動支援センターの設置が各区に展開されたり、コミュニティ政策の基盤として「地域福祉保健計画」が策定されたりしてきました。
そして2005年には、「地域まちづくり推進条例」の施行と「ヨコハマ市民まち普請事業」が開始されました。「条例には、まちづくりの理念として『協働』が謳われている」と話す名和田さん。ここで、「参加」とは意思決定を民主的なものにし、市政に影響力を与えることであり、「協働」は決定されたことを行政と市民が一緒にやることという、まちづくりにおける「参加」と「協働」の違いを強調して説明していただきました。
協働の国際的・歴史的背景
横浜市政において「協働」というキーワードは、「新しい公共」―行政が担っていた公共サービスを市民や民間企業も担うこと―という政策とつながるものでしたが、そもそも「公共(Public)」とは行政だけのものではないため、ヨーロッパではあまり馴染みのない表現だと話す名和田さん。そんな欧州で協働はどのように扱われてきたのでしょうか。
欧州は、日本の消費税に当たる付加価値税の税率が高いことでよく知られているように、高福祉・高負担の社会です。そのため、すべての公共サービスは行政が担うことが前提とされてきました。しかし1980年以降、ニーズの多様化により財政的な厳しさが増してきた中、「市民社会」という概念が持ち出されるようになったそうです。これを「行政サービスを縮減し、後退させるためのイデオロギー」と語る名和田さん。
特に名和田さんが研究されていたドイツでは、介護や青年への支援、児童福祉、教育などにおいて市民による無償のボランティア活動が推奨されていたそうです。市民活動を「国家責任の後退」ではなく「社会国家の生き生きとした側面」であると表現する報告書も解説いただきました。しかし、ヨーロッパでは「本来行政がやるべきことを、なぜ市民がボランティアでやらなくてはいけないのか」という福祉国家的な国民的合意が強く、「協働」というものは浸透しなかったそうです。
協働の意義はどこにあるのか
このように、欧州における政策は「市民社会(Civil Society)」という概念で表現されてきた一方で、日本では「新しい公共」という言葉が登場しました。これは、1990年代以降に経済規模が縮小した「右肩下がりの時代」において、それに見合うインパクトのある政策概念が必要であったためではないかと述べる名和田さん。その後日本では、「共生」や「共助」という表現に置き換えられたそうです。また、それらにおける重要な手法である協働についても、行政と市民社会との協働にとどまらず、市民社会による公共サービスの提供が求められる中で「地域協働」や「住民協働」など、市民社会内の協働を表す言葉も出てくるようになりました。
協働とその社会的背景のこれまでを振り返ると、「協働」は福祉国家の財政制約から生じたもののように見受けられますが、そこに積極的な意義はないのでしょうか?
「もちろん、福祉削減策の側面はある」としたうえで、「『協働』は、民主的社会のダイナミズムを保障するもの」であると話す名和田さん。

行政に税金だけ払ってあとは任せるのではなく、市民も自分事としてできることをするということは、市民社会における市民の重要なあり方だと言います。その中で、「まだ社会的合意―『民主的多数派』の意思―になっていないが、当事者にとって喫緊のニーズがある場合、『市民社会』の中の意欲と専門性で実際にやってみせる。ニーズの存在とその解決方法が分かれば、『民主的多数派』が納得し、制度化される」という部分を、協働における積極的な意義であると考える名和田さん。市民社会の中には、当事者性と専門性、また行政だけでは持ちえない先進性や開拓性、創造性のある活動が存在します。
名和田さんは子育て支援を例に挙げ、「主婦や家庭の役割とされてきたものを、地域や社会による支援が必要であるという思いを持った市民が、当事者性のあるニーズを捉え、その解決方法を自らやってみせた。そうすることで、『子育ては社会の役割である』と民主的多数派が認識し納得できるようにした。このような過程を経て、制度化や財政支出につながり、横浜市においても子育て支援拠点が全区に展開されていくこととなった」と説明がありました。
また、齋藤さんもメンバーの一人でいらっしゃる「横浜コミュニティカフェネットワーク(YCCN)」が、東京都港区にある公設民営のコミュニティカフェ「芝の家」と「ご近所ラボ新橋」を見学した際に、「行政と協働すると自由度が減り活動が面白くなくなるのではないか」という疑問を持った名和田さんからYCCNのメンバーに、公設民営方式について投げかけたところ、意外にも「私たちがやっていることは社会的に必要なことである。それを民主的多数派が認めて制度化し、港区のように財政支出すべきだ」と返答があったというエピソードも共有していただきました。
データから見る市民協働の隘路と展望
最後に、名和田さんと町田市が行ったアンケート及び研究結果をもとに、これからの市民活動や協働についてお話しいただきました。
まず、アンケートに回答した方の職業について、「自営業」「家事専業」「無職」と回答した割合が、2006年度と2024年度を比較すると減少傾向にあることがわかっています。これは、ボランティア活動に十分な力を割けると考えられてきた自営業者や専業主婦(主夫)、リタイアした高齢者(「無職」と回答した人の4分の3が65歳以上であった)が減っていることを指します。
また活動できる曜日・時間帯についても、10~50代では「週末・祝日午前」「週末・祝日午後昼間」が多いのに対し、60代以上では「平日午前」「平日午後昼間」が多くなり、高齢者と若年層で活動条件の違いが浮き彫りになっています。
さらに、近年の地域活動は専門性が増しているにも関わらず、専門人材を確保できていない活動分野の割合が高くなっているということも明らかになっています。欧米では専門性が求められる仕事は資格を持った人が有償で担い、それ以外の部分をボランティアが担っているのに対し、日本では専門性が高い仕事も市民にボランティアで担ってもらっているという特徴についても説明していただきました。実際に、「活動の有償・無償に関する」項目では、2006年度と2024年度の調査を比較し、「無報酬」は半数以下に減っているのに対し、「活動した分に応じて支払」は約3倍に増えていることがわかっています。
働き続ける高齢者や共働き世帯の増加、年代による活動条件の違い、ボランティア活動において求められる専門性の高まり、そしてボランティア活動に対する報酬への考え方など、社会における環境の変化が生まれている中で、「市民活動、そして市民活動によりその効果を発揮してきた『協働』は今後どのようになっていくのか」という投げかけをしていただきました。
参考:「町田市における地域コミュニティの未来に関する共同研究」最終報告書(外部サイト)
港南台タウンカフェの協働の実践
続いて齋藤さんより、地域での活動実践から見えてきた、協働の難しさや協働が地域にもたらす効果についてお話しいただきました。

齋藤さんが代表取締役を務める株式会社イータウンは、港南台タウンカフェやその姉妹店である新川崎タウンカフェ(川崎市幸区)などのコミュニティカフェの運営、情報誌やウェブサイト等のデザインを通じた地域への関わりをしています。またコミュニティカフェ立ち上げのコンサルティングや講演会、区役所との協働による居場所づくりのための取組、自治会町内会の応援事業なども行っています。
株式会社イータウンのHP(外部サイト)
「交流交差点」港南台タウンカフェとは
港南台駅から徒歩2分の雑居ビルの2階に位置している港南台タウンカフェは、「株式会社イータウン」、「まちづくりフォーラム港南」、「横浜港南台商店会」という、性質の異なる3つの組織により運営されています。
カフェの名の通り飲食が可能で、「小箱ショップ」と呼ばれる約100の棚にはハンドメイド雑貨が展示販売されています。一見カフェに雑貨屋さんが併設されているように見えますが、そのねらいは、地域に広く開かれていく、地域の人がまちのことを考える場として、継続性をもたせるためにカフェという拠点を設置したとのことです。カフェでは、交流サロンやフリーマーケット、地域フォーラム、キャンドルナイトなど地域の交流のための様々なプログラムが企画・実施されています。運営スタッフは、若者からシニアまで老若男女問わずに関わっているとのこと。有償スタッフ、ボランティアスタッフ、イベントスタッフ、編集委員等のスタッフがおり、参加することが自分の居場所や達成感になるという方たちが、年間50~100人ほど関わっているそうです。
港南台タウンカフェのHP(外部サイト)
事例1:まちの情報誌
港南台タウンカフェの活動における協働事例の一つ目として、まちの情報誌を挙げていただきました。
助成金の一環で情報誌を作成することになり、商店街のPR誌を発行しましたが、イベントに関わっていた高校生たちに率直な意見を聞くと、「いまいち」という反応があったと振り返る齋藤さん。そんな彼らに対し、商店会長が「面白くないんだったら、自分たちで作ってみてはどうか」という投げかけをしたことから、まちの活動やお店を紹介するための取材を若い世代が進めることになったそうです。まちの人からは「高校生も関わっているんだ」「商店街の雰囲気変わったよね」という反応も。
この活動が約3年続いたころ、地元中学校の職業体験の受け入れを始めたタウンカフェ。「せっかく子どもたちがすごくいい感性を持っていて、いろんなことを感じてくれているのに、それが保護者と学校にしか知らされていないのは非常にもったいない」という思いから、中学生の職業体験を写真や文章などにしてより多くの方に知ってもらうことを校長先生に快諾してもらい、市民参加型の手づくり情報マガジン「ふ~のん」が創刊されることになりました。
齋藤さんは「取材活動は地域の宝探し」と言います。百貨店の販売店店長や自動車ディーラー、自治会長など、つながりがないとなかなか会えない人でも、取材を通して関係性を築くことができる。それが伝播し、商店会という枠を超えてそこに入っていない企業との関係性も広がっていき、まちに関心を持つ人たちが増えたと話す齋藤さん。
最初はよそ者扱いされ、商店街側にも「変わること」への抵抗感があったのが、誰もが関わりしろのある情報媒体を通じて、若い人たちの参画が自然な形で促進され、風通しのよい組織風土へ変化したことでまちの協働へと発展したと整理してくださいました。

事例2:キャンドルナイトin港南台
二つ目の協働事例として、「キャンドルナイトin港南台」についてお話しいただきました。
これは港南台タウンカフェの小箱ショップに出店している作家たちの発意で生まれたイベントだそうで、卵の殻を集め、廃油を入れてキャンドル作りを行うところから始まりました。近年ではイベントに賛同する地元企業が増加。現在は約40社と連携しています。小学校の放課後クラブや地区センター、地域ケアプラザ、コミュニティハウス、区役所などもともにキャンドル作りを行い、ブース出展をするなど、協働型での運営が進んでいます。
市民の小さなつぶやきから始まったイベントがここまで大きく広がった一方で、コーディネート機能の重要性が高まり、事務局の負荷が大きくなったと話す齋藤さん。増加したコストや人的負担を協賛金のみに頼っている状況であることや、関わっている団体相互の関係構築までには至っていないという苦労などについても共有いただきました。
しかし、何もないところから一緒に考え生み出していくというプロセスを共有できる点や、地域に関わる多様な主体(公的施設、学校、企業など)の参画が増えている点、それにより、地元の自治会や各種団体であるかどうかというバリアが外された状態で誰もが対等な位置づけで地域に関わることができる場が増えてきている点を成果として感じられているそうです。
活動の実践から考える、協働が社会にもたらすものとは
これらの協働の実践を通して、多様な団体や人々が連携・協働することで起こる相互作用や成果として、「他人事から自分事への変化・変革」「『参加者』や『利用者』から自然と『担い手』に変化・成長する協働のスタイル・仕組み」「個々の団体だけではなく、まち全体の担い手という意識醸成から起こる『まちのコーディネーター予備軍』の発掘・育成」という点を挙げていただきました。
その一方で、「単独で担えるのであればあえて苦労して協働しなくてもよいのではないか」という投げかけもありました。協働や連携は重要でありながらも、「多くの苦しみや課題も多かった。協働する必要があるのかということは何度も振り返りで思ったりもした」と語る齋藤さん。特に行政や地縁組織との協働による成果が非常に大きいことを実感しつつも、市民活動やコミュニティカフェをしている株式会社イータウンとしての想いや考え方が理解されない場面もあったそうです。また相互理解を深める時間がかかり、相応の忍耐力が求められる経験を重ねてこられたとのことでした。そのため、中間に入って相互の情報や考えを整理する役割を担うコーディネーターの存在が協働を推進するためには重要であることもお話しいただきました。
最後に、「10年の時を経て本当の意味で地域の仲間に入れさせていただいた、地域の方と同じ土俵に乗らせていただけた」と感じていると話す齋藤さん。地域での活動、そして地域に関わる多様な方々との協働を進めていくには、石の上にも三年ではなく、「石の上にも10年の覚悟が必要!」という力強い言葉で締めくくっていただきました。
その後のグループトークでは、市民の方や地域で活動をしている方、地域活動をサポートしている方、行政職員など多様な所属の方々がそれぞれの感想を共有し、活発な意見交換がされました。


グループトークを経て、各グループで出た感想とともに、登壇されたお二人への質問が飛び交いました。
「『石の上にも10年』に共感した。コーディネーターの見つけ方や育て方はどうすればよいか」という質問に対しては、「コーディネーター機能において重要なのは、相手の話に丁寧に耳を傾け、伝えたいことを咀嚼することで、相互の理解が一致しているかの確認ができるようになる点だと考える。市民活動や協働のレベルによって、行政の仕組みの中で設置されているコーディネーターに加え、身近には自治会町内会やNPO、地域ケアプラザのコーディネーターなども通訳的な役割を果たしてくれる」という回答が名和田さんよりされました。
また、「市民社会や市民協働のこれからを考えるにあたり、大事なポイントについて知りたい」という投げかけには、「組織としての場を開くことや、心を開くというマインドがベースではないか。言い換えれば、組織の中に余白をつくったり、弱みも見せたりすることができることだと思う。特に行政職員は立場上市民に対して弱みを見せづらいことがあると思うが、市民や活動者がいるところで悩みや課題感を話してもらうことで、一緒に考える機会が持てる。その関係性ができれば、協働の8割は成功するのではないかと感じている。立場の異なる人たちが、それぞれの考えや気持ちがあって、それを聞くことができる相手がいる。腹を開いて話せる場をどうセッティングできるかという点が、ポイントなのではないか」という経験も踏まえた考えが齋藤さんより共有されました。


おわりに
日々活動や業務をしている中で、「協働が大事である」ということはよく耳にしつつも、「なぜ協働が大事なのか」「協働することによって社会にどのようなインパクトがあるのか」という部分については、理解することが難しいと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、「民主的社会のダイナミズムを保障するもの」「他人事から自分事化」「自然と『担い手』に変化・成長する仕組み」「『まちのコーディネーター予備軍』の発掘・育成」など、研究者と活動実践者の両方の視点から、協働の意義についてお話しいただきました。
また、齋藤さんより「現場で活動をしている市民団体の考えや大事にしていることが必ずしも相手に理解されるわけではない」というお話がありました。「協働をしたいけど、どう進めればよいかわからない」「意見が合わなくてうまくいかない」といった声もありますが、自身が所属している組織の行動原理や課題感を伝えるだけではなく、相互の話を咀嚼して通訳するコーディネーターとしての立ち回りや意識を持つことも大事なのではないでしょうか。
横浜市市民協働推進センターは、今後も皆さまに役立つセミナーや組織を超えてつながる場の提供をしてまいります。当センターが主催するセミナーやイベントの情報は、随時HPやSNS、メールマガジンに掲載しております。今後も皆さまのご参加をお待ちしております。
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