EVENT REPORT VOL.1 登壇者の皆さんの事業紹介&協働のプロセス
2022年7月19日火曜日に横浜市庁舎にて開催された、横浜市市民協働推進センターが行う市民参加型の対話のイベント【対話&創造ラボ】。このイベントは、さまざまな主体の交流・連携から、新たな知を生み出す場として昨年からスタートしています。 今年度は「地域や社会を良くするプロジェクトの作り方」をテーマに、さまざまな実践者を交えて“協働”の価値とその魅力を座談会スタイルでお届けしています。
今回はその第二回、森祐美子さん、田川尚登さん、荒尾元彦さん、田村篤史さんによるお話をレポートします。
まず最初に横浜市市民協働推進センターのクリエイティブディレクター森川より、推進センターの目指す役割、「対話&創造ラボ」を通じて届けたい価値について紹介後、それぞれの登壇者の皆さんから活動紹介として各10分ほどお話をさせていただきました。
自分の課題だと思ったことが、実は社会として取り組む課題に
トップバッターは、特定非営利活動法人こまちぷらすの代表森祐美子さん。現在は戸塚にあるカフェ「こまちぷらす」を拠点に、育児中の母親とまち・人との接点を様々な形で生み出しながら、あたらしい関わりのデザインを数多くのボランティアや活動に共感する企業や個人と一緒に、展開されています。
元々全く違った畑でお仕事をされており、自動車メーカーでの営業や販売、調査などの仕事をする中で、子どもを産んで、その育児の最中に“言葉にならない孤独感”を感じ、地域活動に参加することで救われた経験を持つ森さん。
「私にとっての“協働”の原点というものとしては、学生時代に新潟県のとある公共文化施設の研究を行っており、その施設のある街をあまりにも好きになってしまったことから、友達に声をかけて団体を立ち上げ、向こうで一日限定のカフェを開き、地元の方々と交流をするイベントを企画したことでしょうか。
その時に、いろんな人と作るって楽しいなとか、あーでもないこーでもないとやることが本当に楽しかったんですね。どちらがホスト、どちらがゲストという関係ではない、関係性のリミックスがある場をこの時に経験して、すごく楽しい経験ができました。」
とお話しいただきました。また、“言葉にならない孤独感”を感じた時については
「ぽっかり心に穴が空いたような、ただ自分より大変な人はもっと沢山いる、自分がダメなんだと。誰かに相談しようという発想もなかったんです。私はそういったときに、たまたま参加した活動を通じて、自分の課題だと思ったことが、実は社会として取り組む課題なんだと、そういった構造を知る機会があったんですね。そこで色々なことが整理できて、大きな転換期になりました。
子育て支援拠点の立ち上げに立ち会って、自分は支援を受けるということではなく、そういった活動に参加することによって、すごく救われて行きました。」
「今カフェをやっているのですが、大切にしていることとしてやはり【参加】ということなんです。【参加】することで力を取り戻していく、それをコアな価値として私は持っています。」
現在スタッフは40名、登録ボランティアは230名という数多くの方々が関われっる【参加】の関わりしろを生み出している森さん。地域で温かいご飯を食べられる飲食の提供や雑貨の販売、イベントスペースの運営など、事業規模としては3700万ほど。委託事業ではなく、自主事業・寄付・企業協賛・研究開発など、文字どおりいろいろな方々に支えていただきながら事業を展開されています。
「さまざまな事業をやっていますが、いろいろな方の参加によって運営が出来ているんです。その参加のステップ、体型立てて参加の仕方を作っているのが、私たちの活動の特徴だと思っています。
最近ではうちの地域でもやりませんか?と声を掛けていただくこともありますが、基本はフランチャイズなどはしておらず、できるだけカフェ運営のノウハウをオープンソース化していて、帳票類などの半分はダウンロードして使っていただけるようにしています。
また【ウェルカムベビープロジェクト】という事業がありまして、これは地域のみんなで出産祝いを作って、無料で届けるというプロジェクトです。今は戸塚や鶴見、松戸や茅ヶ崎で始まっていまして、このプロジェクトはヤマト運輸さんと2014年冬に出会ったことで、戸塚区からスタートしています。各地域で支部を作っていて、それぞれの地域で作り提供しています。現在は年間1,000人ほどの手に届くようになりました。
お渡しするのは背守りという手作りのアイテムで、いろいろな企業さんの寄付で成り立っていまして、地元の薬局や金融機関、メーカーやバッグを作っている人、いろいろな業種を問わず、賛同してくれる方々と一緒に行っています。」
ウェルカムベビープロジェクトを通じて、いろいろな企業が出会っていく中で、たった一人のお父さんが「おむつが自動販売機で売ってたらいいなー」という声を出したそう。たまたまその場所に居合わせた企業(KIRINさん・花王さん)の2社が意気投合、たった10ヶ月で開発まで進み、日本で最初のおむつが買える自動販売機が世に出ることになったそうです。
「最初の一台は戸塚区で、そして現在関西空港含めて69台が全国で稼働しています。なんでこのような協働が生まれたのか?それぞれの資源を持ち寄り、なんのために、誰のためにやるのか、もちろんそれぞれの企業のタイミング、最後は担当者の熱意だと思いますけれど、いろんな要素が本当にうまく噛み合って、実現したプロジェクトでした。
結果として、普段は営業をしないと置けない自動販売機が、逆営業で置かせて欲しいという声が届くようになったそうです。」
最後に、制度やサービスが少なかった時代、それぞれの課題をコミュニティがキャッチしていたけれども、今は制度やサービスが増えてきている一方で、コミュニティが細切れに小さく薄くなってきている。その時に時代を逆戻りするのではなくて、自分たちの周りに小さな小さなコミュニティを作って、お互い同士がつながり合うことで、安心して暮らせる社会が作れたらといいなと、森さんのプレゼンは終了しました。
世界水準の子どもホスピスを横浜に
続いては、認定非営利活動法人 横浜こどもホスピスプロジェクト 代表理事田川尚登さんにお話しいただきました。
田川さんは、2003年NPO法人スマイルオブキッズを設立。2008年病児と家族の宿泊滞在施設リラのいえを立ち上げ、2017年NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクトを設立し、代表理事に就任。「病気や障害がある子ども家族の未来を変えていく」をモットーに小児緩和ケアとこどもホスピスの普及を目指して活動されています。
「日本で20万人の小児慢性疾病の子どもたちがいます、そのうち2万人が小児がんなどで命を脅かされた子どもたちです。小児緩和ケアの定義として、がんの告知の下に、さまざまな相談に乗るのが緩和ケアと言われていますが、小児がんの場合、本人だけではなく、兄弟や若い両親など、家族全体に向けたサポートが必要と言われています。」
「これまでの活動の経緯をお話しすると、2003年にスマイルオブキッズを立ち上げて2008年にリラの家“入院の子どもにつきそう宿泊滞在施設”を開設しました。そこから看護師の方の遺贈をきっかけに、横浜子どもホスピスプロジェクトの設立につながり、2021年11月に横浜市金沢区に【横浜子どもホスピス|うみとそらのおうち】を開設することが出来ました。10年かかってできた施設です。」
田川さんの次女はるかさんの闘病時に感じていた、さまざまな事柄と看護師をされていた石川美江さんの遺贈(1億500万)とが結びつき、プロジェクトを進めてきた田川さん。チャリティコンサートや賛助会員の方々を募りながら、建築費と運営費となる3億円の寄付を集めるために、さまざまな取り組みを続けてこられています。
「寄付もそうですが、横浜市などの自治体にも協力を仰ぐために活動を続けてきました。担当課へのヒアリングや、横浜市経済局が実施していた「ヨコハマ・イノベーションスクラム」などのプログラムを通じて、プロボノで浜銀総合研究所のスタッフから中長期の事業計画作りを手伝っていただいたり、いろいろな方々との出会いがあって、今に繋がっています。」と田川さん。
昨年、2021年11月にオープンした“うみとそらのおうち”は、駐車場から車椅子のまま室内に入れたり、一階は地域の方々にも貸し出せるような開かれた空間。個室3部屋があり、各部屋にはリフトでお風呂場までいける設備もあるそうです。天井が高く、木の香りと開放的な空間で、子どもと家族の希望を叶えていける場所として事業をスタートされています。
「うみとそらのおうちを通して、命の脅かされた子どもと家族の心理社会的孤立の軽減をこれからも提供していきたいと思います。現在、札幌・福岡・昭島・松本・福井・名古屋・千葉など、全国でも子どもホスピスの作りたいというニーズもいただいていて、横浜市と連携して進めてきた【横浜モデル】を全国に広げていく、地域ネットワークづくり・支援する仕組みにも取り組んでいきます。
私たちが目指す地域社会の姿として、1つは“生命を脅かす病気を持つ子供と家族がその子らしく生き、望む過ごし方の選択ができる社会”になること、もう1つは“子供が一人の人として大切にされ、家族が地域社会とのつあんがりの音で命の可能性が発揮できる社会”となるよう、これからも活動をしていきます。」
寄ってたかって、解決をする。Question|京都信用金庫
続いてご登壇いただいたのは京都で事業を展開されている、京都信用金庫の荒尾元彦さん。2020年11月に京都市役所の前に8階建てのビル “新河原町ビルQUESTION” をオープン。この施設のコンセプトは<一人では解決できない【問い】に対し、さまざまな分野の人が寄ってたかって答えを探しにいく場所>。京都信用金庫河原町支店のほか、各階にはレンタルスペースやコワーキングスペース、シェアキッチンなどが設計され、さまざまな人が集う場となっている。
「今日は京都から参加させていただいております。とても楽しみにしておりました。我々京都信用金庫が立ち上げたQUESTIONという施設ですが、なぜ地域の金融機関がこういった場を作ったのか?本日いろいろとお話しさせていただく中で、皆さんの“協働”のきっかけになればと思っています。」と荒尾さん。
京都信用金庫は設立1923年、来年で100周年となる金融機関。支店数は92支店、スタッフは千六百人ほど。信用金庫では5番目の規模とのこと。
「今日もTシャツでお話しさせていただいておりますが、営業マンから窓口スタッフまで、全員私服で仕事をしても大丈夫な、変わった金融機関でもあります。預金、貸出金など従来の金融機関としての機能を軸としながら、課題解決機能・ビジネスマッチングを大切にする金融機関となっています。
いわゆるノルマと呼ばれるものは撤廃しておりまして、人と人を繋げて、事業者同士をマッチングさせる、ともに価値を創造することを大切にしています。
お節介を焼きながら、みんなで寄ってたかって解決をする。QUESTIONはそんな場所になっています。一人では解決できない課題・問いをみんなで解決していく。学生が今もやもやしている課題やテーマを、事業をやっている経営者なら事業・経営の課題を、さまざまな問いが持ち込まれるのがQUESTIONなんです。」
1階にはカフェ&バーがあり、2階にはオープンなコワーキングスペース、3階には集中して仕事ができる会員制の空間、そして“コミュニティステップス”と呼ばれる空間では、祇園祭の辻廻しを特等席から見ることができる開放的なイベントスペースとなっているそうです。5階には、学生中心のスペース“STUDENTS LAB”があり、学生証があれば誰でも使えるラウンジも。8階にはシェアキッチン型のコミュニティスペースもあり、その機能の多様さは驚くほど。
「今日一緒に登壇していただいている株式会社ツナグムの田村さんに、この8階の食をテーマにした空間を運営する株式会社Q`sの代表になっていただいています。ツナグムさんのようなコアパートナーの方々が5社いらっしゃって、立ち上げ前からまさに“協働”をしながら、運営をしています。
コアパートナーの他に、パートナー企業も80社ほどいて、さらにアソシエエイトパートナーという方々もいらっしゃって、SNSの運用の専門家や様々な分野のエキスパートの方々にも協働いただいているのが特徴になるかと思います。そこにコミュニティマネージャーという人材を京都信用金庫で置いていることで、場所と人の両方を持つことが、強みになっています。」
「QUESTIONの事例として、京都で70年の歴史ある企業さんの自社パッケージの刷新の課題をいただいて、内覧会を実施、そこで京都の学生たちと出会ったことで、のちに学生のデザインを募ることになりました。実際にそのアイデアが世に出ることになり、今度はその企業のロゴを刷新するプロジェクトも、学生にお願いしたいとお声掛けいただいています。」
地域課題ではなく、自分課題から|私→共→公
最後にご登壇いただいたのは京都信用金庫と一緒に”QUESTION” のコアパートナーも担っている株式会社ツナグムの代表取締役の田村篤史さん。京都生まれで、3.11を契機に東京からUターン、京都移住計画を立ち上げられています。2015年にツナグムを創業。採用支援、企業や大学など拠点運営、地方への関係人口づくり等を通じて、人の働く・生きる選択肢を広げる活動を軸にさまざまな事業を展開されています。
「荒尾さんからお話があった、京都信用金庫QUESTIONで一緒に協働させていただいているんですが、会社としては7期目となりまして、ツナグムのミッションとして【人と人、人と場のつながりを紡ぐ】というものを掲げているのですが、共通する部分が多いので、ご一緒できているのかなと思っています。」
「今日は“地域や社会をよくするプロジェクトの作り方”がテーマなので、ケーススタディとして京都移住計画をどのようにして立ち上げて、継続してきたのか、お伝えを出来ればと思っています。エッセンスとしては、今日の最初のお二人にも共通するかと思うんですが、地域課題ではなく、自分課題から始まっているということ。これは僕も一緒で、<京都帰りたいな>という自分ごとからスタートしています、でもそれは自分だけの話ではなくて、横にいる人も同じような思いを持っているかもしれない。それをシェアできたら、その課題を一緒に解決する仲間になりうるし、それがもっともっとたくさんいれば、公にとっても必要な課題だったりするんだと思います。」
チャールズ・ハンディの著書【もっといい会社、もっといい人生】という本の中で、適切な自己中心性についても触れ、自分が大切なことは、他の人にとっても大事であると書かれていること、ビジネスという文字も語源を調べると、誰かのケアをすることだと語る、田村さん。
「株主資本の最大化が<民>のカテゴリの軸だとして、街がどうあるべきか・どうやったら自分たちが暮らしやすくなるのか? <官>の領域を行ったり来たりしながら、自分たちは仕事をしています。
移住計画の話に戻ると、なんとなく自分はこのステップでプロジェクトを進めてきていると思って、言葉にしてみました。言ってみる・聞いてみるから、小さくはじめる、仲間とはじめる、あとは急がずに続けていくこと、が大事だと思っています。第一回の方でも同じようなキーワードが出ていたようなので、そこは共通なのかなと思ったりしました。」
またもう1つのエッセンスとして“ベクトルの和”というフレームワークを紹介いただき、自分と他者(仲間、企業や行政)の2軸と、もう1つ二つの軸の間のベクトルを見出せれば、それが協働に繋がるのではとご紹介いただきました。その時に、お互いが疲弊しないような塩梅を見つけることが大事と、田村さん。
「京都移住計画も、最初は<みんなずっと東京いるの?>という問いから始まり、<いつかは帰りたいよね>、でもすぐにはできないので、明日からできること・今日からできることを計画しよう!ということ、計画まで落とし込めれば、アクションに落とし込める、ということでスタートしています。
具体的に、どんなことをやっているのか?<居><職><住>というテーマでお話しすると、<居>の部分をピックアップしてお話しすると、移住した人や移住を検討している人たちが交流する場が当時なかったんですね、そういった人たちは地元の人と繋がりたいし、同じ境遇の人たちと繋がりたい、情報交換したい、きっとニーズがあるなあと思ったんです。企業の経営者も、物件を持っている方が居たり、それであればこの場にきちんとビジネスの価値があるなと、人材採用や物件紹介などのサービスを提供するようになりました。」
田村さん達が活動を続ける中で、移住を促進する上で自治体の方々の横の連携がないということが、大きな課題だと感じ自治体職員さんが緩やかにつながる場を作ったりもされたそうです。そういった取り組みの中で<共創のポイント>として、お話いただいたのが、【関係の質】の重要性。土を耕すように、丁寧にこの部分をやることで、後から目が出るようにチーム作り・共創がうまく進んでいくのではと、お話しをいただきました。
後半の座談会トークは、VOL.2でお届けします。