
月1回登場!高校生による高校生のための校内居場所カフェ
横浜中華街の延平門のそばにある、横浜市立みなと総合高等学校(以下、みなと総合高校)。校舎の正門をくぐると、左手にブルーを基調色とするラウンジが目に入ります。
横浜市市民協働推進センターがここに訪れたのは、2026年6月10日。15時を過ぎると、授業を終えた高校生がラウンジに続々と集まってきました。高校生がイスやテーブル、ポスターなどを配置し終え、30分も経たないうちに、ラウンジは100名を超える高校生でいっぱいになります。

列に並び、軽食を受け取る人。軽食を食べながら、友だちや教員と談笑に花を咲かせる人。ラウンジ奥のスペースで工作ワークショップにいそしむ人。それぞれが思い思いの放課後を過ごす空間は、若い世代の活気とエネルギーにあふれていました。
これは、高校生が自分らしく過ごせる場と時間を創出することを目的とした、校内居場所カフェ「みなとCAFE」の取組です。開催頻度は、毎月1回程度。校内居場所カフェは市内の他の高校でも実施されていますが、みなとCAFEの大きな特徴は、企画・運営を高校生が主体的に行っている点です。「みなとクルー」と呼ばれる有志の高校生が、このカフェをつくりあげています。
「公益財団法人よこはまユース」の運営により、2023年に産声を上げたみなとCAFEは、2026年度から学校の事業として位置づけられ、高校生が主体的に企画・運営を行う体制へと移行しました。この移行は、高校生、教員、支援員や大学生など、多様な立場の人々による協働があったからこそ実現できたことです。
今回は、現在高校3年生の梅沢奈央さんをはじめとしたみなとクルーのみなさん、校内居場所カフェを担当する教員の湯地紀美さん、初期から運営を担当したよこはまユースの塩嶋瑶子さん、大学生コーディネーターの須釜杏菜さんなどの声とともに、みなとCAFEが高校生の手に受け継がれていくプロセスをご紹介します。




みなとCAFEのはじまり:高校生が安心できる居場所をつくろう
みなとCAFEがスタートしたのは、2023年。みなと総合高校の校長・靑木恒夫さんは、日頃から高校生が気軽に立ち寄れる校内の場づくりについて、その重要性を強く認識していました。あるとき、靑木さんはすでに校内居場所カフェに取り組んでいた横浜市立横浜総合高等学校に相談を持ち掛けます。その運営に従事していたよこはまユースが、みなと総合高校でも同じく校内居場所カフェの企画・運営に携わることとなります。
2023年からみなとCAFEの運営を務めた塩嶋さんは、その立ち上げに向けた思いを話してくれました。
「靑木さんをはじめみなと総合高校のみなさんからは、思春期ならではの悩みを抱える高校生が、安心して過ごせる場所をつくりたいという熱い思いを伺っていました。カフェを立ち上げることで、教員とは話をしたがらない高校生が、大人に気兼ねなく相談できる環境を自然と生み出すことができます。さらにワークショップや体験会などを組み合わせることで、普段の学校生活の中ではスポットライトが当たりにくい高校生が活躍できる機会をつくることも、校内居場所カフェの大切な役割だと考えました」

予算や開催規模が不明確な状況の中で、2023年度はみなとCAFEを合計4回オープン。社会福祉協議会などから寄付された軽食や提供品を配りながら、高校生や学校と少しずつ関係を築いていきました。

「初年度は、まず顔見知りになることを目標にしました。高校生には、年に数回、放課後に現れる物を配る人に見えていたと思います」と笑う塩嶋さん。その地道な活動から、少しずつみなとCAFEの存在が高校生の間に認知されていくのです。
新しい人、新しい文化、新しい体験をみなとCAFEで
2024・2025年度に、「東急子ども応援プログラム」の助成を受けたことで、みなとCAFEの企画の幅が一気に拡大。塩嶋さんは、「高校生が、新しい人や体験と出会える場にしたい」と考えながら企画を次々と提案します。
その一つが、社会人や大学生のボランティアとの交流の促進です。当時カフェの参加者であった、高校3年生の梅沢さんは、「大学生や社会人と進路や趣味について気軽に話せるのが一番楽しかったです」といいます。相談や思いを吐露するでもない雑談の時間が、最も印象に残っているそうです。学校の友人や教員とは異なる人とのつながりが生まれること自体が高校生にとっては新鮮であり、それがみなとCAFEの大きな魅力になっていました。


地域とのコラボレーションも少しずつ生まれました。それを象徴するのが、横浜中華街にあるボードゲーム専門店「リゴレ」が参加した企画です。高校生、大学生、社会人、ショップのスタッフなど、そこで初めて会う人々がテーブルを囲み、ゲームへ熱中。「地域の人々と高校生、大学生などが、垣根を越えてつながる素晴らしい時間でした」と教員の湯地さんはその企画の意義を語ります。

他にも、視覚障がい者を対象とした就労支援施設や、横浜市で営業するキッチンカー事業者、横浜市で居場所づくりを行う地域団体、eスポーツ企業など、多様なジャンルの団体や企業と連携。2025年には、横浜市で開催された「アフリカ開発会議(TICAD)」に合わせて、アフリカ文化に触れる特集を展開しました。高校生が普段の生活の中では出会う機会が限られる人や文化、価値観に触れられる時間をより一層増やしていきます。



これらを通じて、みなとCAFEは高校生の安心できる居場所を提供するだけにとどまらず、自分の興味関心や将来のキャリアに対するイメージを深める場としても同時に根付いていきます。
高校生の「続けたい」を実現するためのチャレンジ
カフェ継続の危機が訪れたのは、2025年です。2024年度から2年間にわたった「東急子ども応援プログラム」の助成が同年で終了。それ以降の予算の見通しが立たないことは明白でした。
「カフェをなくしたくない」
「カフェを続けたい」
カフェの参加者であった高校生たちから、そんな声が次々に上がりました。
その思いを受け、みなと総合高校、よこはまユース、そして高校生が協力しながら、学校の事業として継続できる体制づくりに乗り出します。高校生が主体となる運営に向けて、大きく舵を切ることとなったのです。
2025年春には、みなとCAFEの運営に参加したい高校生を募集。集まったのは、約30名の有志たちです。1年生からみなとCAFEを楽しみにしていた梅沢さんもその1人。「みなとCAFEがなくなってしまうのは、本当に寂しい。自分にできることをしたい」と考えて、応募を決めました。
ここから本格的にカフェの活動に関わるようになったのが、大学生コーディネーターの須釜さんです。須釜さんは、次年度以降にみなとクルーが主体的に活動できるように、高校生に伴走しながらサポートする役割を担いました。
塩嶋さんは、大学生コーディネーターに参加してもらった理由を次のように話します。
「高校生が運営について相談しやすい環境を用意するため、大学生の須釜さんに高校生のサポート役をお願いしました。私のような大人だと、どうしても支援する側として受け取られてしまうため、高校生も話しかけにくさを感じることがあります。その点、大学生はより身近な存在ですし、高校生にとっても将来のロールモデルになりやすいだろうと考えました」
同年5月から生徒主体の運営を目指すための「みなとCAFE会議」を実施。会議は1年間で合計9回、さらにはランチミーティングを追加で行い、「みなとCAFEの目的」「みなとCAFEが目指す場」「運営において必要な役割」など、活動の根幹となるテーマを高校生同士でじっくりと話し合いました。

「集まった高校生は、青い炎がメラメラと燃えているような子が多かった」とみなとクルーに対する印象を教えてくれた須釜さんは、当時の会議の様子をこのように回想します。
「そんな子たち一人ひとりが持つ、みなとCAFEへの思いや理想などをまずは全員で共有しました。パワーポイントや紙を使って各々の考えを可視化し、仲間として同じ方向を向けるよう一つ一つ整理していったんです」

会議に参加していた梅沢さんはその時の心境を率直に語ってくれました。
「毎回2~3時間くらい話し合いをして、集まった理由もわからないまま、みなとCAFEは何をするのか?運営ってどういうもの?と、みんなで意見を出し合う時間が続きました。答えがなかなか見えずに、そのときは大変だったんですけど…。ただその作業を通して、お互いの名前を覚えていって、その人の人となりや好きなことを知り、だんだんと仲間となっていくような感覚がありました」

会議を重ね、高校生自身が、総務・企画・渉外・会計という4つの部門を設置し、それぞれの役割を細かく整理。「高校生が気軽に楽しく、盛り上がれる空間」というコンセプトや、「みなとクルー」という名称がここで決定しました。12月には、みなとクルーが企画・運営を担ったカフェが初めて開催されました。その後も会議を続け、よりよい運営の方法を生み出していきます。

1年間にわたる体制づくりは、高校生にとって決して楽な時間ではありませんでした。しかし、活動の目的や役割分担まで、運営の方法を一から築いた過程こそが、「自分たちが運営する側である」という当事者意識を高校生の心の中に育んでいったのです。
体制づくりには正解はありません。何を目指すのか、どのように進めるのか。答えの出ない課題を前に、立ち止まる場面も多々あったといいます。そんなときに、支援者や教員より身近な存在である大学生コーディネーターが、共に悩みながら考え、次の一歩を後押ししました。
「教員の言葉は高校生にとっては強い指示になりがちです。それでは高校生の主体性は醸成されません。だからこそ高校生に近い立場からそっと寄り添ってくれる大学生の存在はとてもありがたかったです」と湯地さんは振り返ります。
高校生のアイデアが満載!リニューアルしたみなとCAFE
2026年4月、みなとCAFEは高校生が主体で運営する校内居場所カフェとしてリニューアルオープンを迎えました。みなとクルーの登録者は3学年合わせて約30名。学校の食育担当の事業として位置づけられ、活動予算もそこで計上されています。
みなとCAFEは、部活動や委員会とも異なる独自の形で実施。部活動であれば補助金がありますが、その分活動内容の規制が多い。一方で委員会では人は集まりやすい反面、活動に対する温度感でばらつきが生まれやすい。「意欲が高い高校生が自然と集まるのに、とても適した体制に落ち着きました」と湯地さんは安心した様子を見せました。

2025年度の1年間の経験を経て、みなとクルーは運営の力を着実に身に付けてきました。年間スケジュールの見通し、企画提案から軽食の試作の準備、当日の実施、スケジュール管理、会計報告、参加者数の記録など、教員が指示する前に高校生が率先して動いています。
「活動しやすい環境や条件を上手にこちら側が整えさえすれば、高校生の力で物事を進めていけるんだなと感心しました」と、高校生の成長するパワーに湯地さんはいつも驚かされているそうです。
次回のカフェの実施内容に関するアンケートを作成するアイデアは、自分たちで発案。さらに、みなとCAFEの公式キャラクター「かふぇまる」のデザインや設定も一から考えました。取材当日に配布されたゼリーは、みなとクルーが季節感を考慮しながら試作を重ねて手作りしたものです。いまのみなとCAFEでは、高校生たちの自由で多彩なアイデアが満載です。


2026年6月10日のワークショップ。
この日はモールを使用した花束づくり。それぞれが次の世代へバトンを渡す
みなとCAFEの運営は、現在2年生が中心です。2年生も回を重ねるごとに、必要なことを積極的に考えられるようになっています。
「これからは部活動とのコラボレーションを増やしたいです」。そう元気に夢を話してくれたみなとクルーの2年生の言葉からは、自分たちで新しい場をつくっていこうとする意欲があふれています。

持続的な運営に向けて、新入生の勧誘に力を入れています。3年生の梅沢さんたちは学校説明会で、みなとCAFEの面白さや運営のやりがいを発表。そのプレゼンテーションをきっかけに、みなと総合高校へ入学し、みなとクルーへ参加してくれた1年生がいます。
その1年生にお話を伺うと、「高校でも居場所ができるか不安だったから、それなら自分でつくってみようと思って参加しました」「学生時代の思い出づくりの一部に関われるのがうれしいです」と、今後の活動への期待を共有してくれました。
みなとCAFEの運営に当初から関わってきたみなさん。次の世代へみなとCAFEを上手に引き継ぐそれぞれの方法を考えています。
梅沢さんは「スムーズな運営の進め方を2年生と話し合いながら、3年生としてしっかりとサポートしていきたい」と話します。大学生コーディネーターを担った須釜さんは、「数年後を見据え、みなとCAFEの理念や目的を明文化する方法をみなとクルーと考え出せたら」と思っているそうです。
教員の湯地さんは、「高校生、学校、教員など、誰か一人に負担が偏りすぎない環境づくり」を目指します。よこはまユースの塩嶋さんは、「大学生ボランティアの派遣や、寄付・協賛の呼びかけなど、後方からのサポートの形」を模索中です。

高校生、教員、大学生、支援者。それぞれの立場から次の世代へのバトンを考えている姿がありました。放課後の高校生の居場所は、今後どのように未来へ引き継がれ、その形を変えていくのか。次の世代の高校生による、みなとCAFEの新しい姿にぜひご注目ください。
編集後記
みなとCAFEの歩みは、若者を単に支えられる存在として見るのではなく、自ら考える担い手として捉え、育てていくことの大切さを教えてくれました。若い世代に任せきりにするのでもなく、支援者が主導しすぎるのでもない。必要なときにサポートをして、ときには一緒に考える。そのような伴走ができたときに、若い世代の意欲や力がより一層引き出されていくのです。
横浜市市民協働推進センターとしても、こうした実践から若い世代が主体となる協働のあり方を学び、その広がりを支えていきたいです。