取組紹介

【協働事例】“大学のあるまち六角橋”で継承されるまちづくりの若き情熱(神奈川区)

協働事例「六角橋で継承されるまちづくりの若き情熱(神奈川区)」

地域の高齢化と担い手不足が全国的な課題となるなか、10代・20代の若者たちがまちづくりに参加するモデルケースとして横浜市神奈川区・六角橋発祥の「まち×学生プロジェクトplus(通称「まちかけ」)」が注目されています。 “大学のあるまち”でありながら、「4年でいなくなる学生は住民ではない」という考え方さえあったという六角橋地域がどのように変わってきたのか。学生と地域の接点を作り、信頼関係を築き上げてきたプロジェクトメンバーにこれまでの経緯と今後の展望について聞きました。

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NPO法人まち×学生プロジェクトplusのメンバー。左からやまもとあいさん(理事・デザイン担当)、原島隆行さん(常任理事)、井之上遥南さん(学生コーディネーター)、森勤さん(代表理事)、小倉勝十さん(理事・事務局長)、岩崎洋斗さん(理事)

はじまりは学生のゴミ出し問題 ― 「まち×学生プロジェクト」が立ち上がるまで

1920年代に東急東横線「白楽」駅と横浜市電ターミナルが開業した六角橋。まちを見下ろす丘の上に桜木町から神奈川大学(当時は前身の専門学校)が移転してきたのは1930年のこと。 “大学のあるまち六角橋”としての歴史はおよそ100年を数えることになります。

2014年、そんなまちに横浜市六角橋地域ケアプラザの地域活動交流コーディネーターとして配属されてきたのが当時26歳の原島隆行さんです。

あらゆる社会資源を活用し住民に求められる地域福祉活動を生み出すコーディネーターとして、若く情熱に満ちた原島さんはまちのあらゆるイベントや集まりに参加し続けました。すると複数の自治会長らから「学生のゴミ出しが問題になっている」という声を聴くようになります。原島さんはその背後にゴミ出し問題だけにとどまらない学生と地域住民とのコミュニケーション不足があると気づきました。

当時六角橋自治連合会(いわゆる連合町内会)会長だった森勤さんは、コミュニケーション不足の理由として「4年で卒業してまちを去る学生たちを“住民”として見ていない人もいた」と説明します。

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当時を振り返る森さん

日夜街中を駆け回り、大学側にも地域にも顔が利くようになっていた原島さんは「学生と地域の接点を作りたい」と考えました。そして2015年10月、森さんらとともに「まち×学生プロジェクト」の立ち上げに至ります。

しかし当初のもくろみは一つの挫折に行きつきました。2016年2月に第1弾イベントとして企画した防災をテーマとする映画上映会に学生の参加がひとりもなかったのです。原島さんはこの時期を振り返って「何をやってもうまくいかなかった半年」と表現します。

地域の側にも学生の側にも乗り越えなくてはならない心理的な壁があったといえます。しかし、原島さんらはあきらめずアプローチを続けました。

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何をやってもうまくいかない半年。でも原島さんはあきらめませんでした。

本格的な活動がスタート ― 初の地域交流企画「六神祭」誕生

初めて学生側からリアクションがあったのは新年度に入ってから。神奈川大学学生ボランティア活動支援室(通称「ボラ室」)に所属する3年生の岩崎洋斗さんが、夏の学生参加型ボランティア企画について横浜市社会福祉協議会に相談を持ち掛けたところ、そこで「まちかけ」の活動を紹介されたのです。

「最初はみんなが参加しやすいゴミ拾いを考えていました。でも森会長に相談したら『そんなの面白くない』といわれて(笑)」と岩崎さん。

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現在は社会福祉法人に就職し「まちかけ」の経験を生かしている岩崎さん

そこでたどり着いたのが“地域の人が大学に入れるイベント”というコンセプトでした。名付けて「六神祭(ろくじんさい)」。岩崎さんが友人や知り合いのサークルに声をかけてクラシックギターやフラメンコ、書道や手話などのパフォーマンスによるプログラムを編成し、夏休み中のキッズクラブなどにも声をかけた結果、8月3日の本番当日には学生50人、地域から70人以上が参加するという大成功を収めたのです。

この連合自治会とボラ室の学生による「六神祭」に刺激を受けたのが、もうひとつの学生グループである神奈川大学ボランティア部「GLONBAL☆YEN☆LEAP」のメンバー。こちらは2016年9月に六角橋商店街連合会と協力して認知症啓発活動「オレンジプロジェクト」を立ち上げ、のちに「神奈川区みまもり協力店制度」のような具体的な施策の実現につながっていきました。

原島さんらによる地道な種まきを経て、出会いが出会いを呼び、ときには互いに刺激しあいながら、「まちかけ」は学生と地域の“顔の見える関係”を作ることに成功していったのです。

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2018年「お年寄りにやさしい街『六角橋』」を掲げるオレンジプロジェクト【写真提供:「まちかけ」】

活動の心臓「定例会」 ― アイデアをカタチに!学生が卒業後も戻れるまちづくりへ

「まちかけ」において「六神祭」や「オレンジプロジェクト」のようなアイデアを次々に実現していく“心臓”となっているのがまちの主要メンバーが一堂に会する「定例会」です。

「自治会・商店街の会長、区役所、ケアプラ、区社協、大学といった人たちの前でアイデアを持った学生がこれをやりたいとプレゼンをする。そうするとみんなで『それはうちができる』とか『担当者を紹介する』などと始まり、形になっていく。地域メディアも来ているので広報までワンパッケージです」と原島さん。

こうしたまちづくりの現場で磨かれた学生たちは4年間で見事に成長するといいます。だからこそ森さんは「学生を“ネコの手”のように都合よく使おうとしてはいけない。まちの側こそ学生とつながりを持ち続ける努力が必要」と語ります。

 「まちかけ」には発足当初から掲げる3つの目標があります。

・地域と学生が気軽にあいさつできるまち

・学生の学びを応援できるまち

・学生が卒業しても戻ってきたい、住み続けたいまち

このうち“戻ってきたい”を形にしたのが、卒業式としての「社会人への門出式」と同窓会としての「ホームカミングデー」です。六角橋で成長した学生たちをまちを挙げて送り出し、またいつでも戻ってこられる機会を年に数度定期的に設けています。実際に行事のたびに北海道や新潟などから手伝いに駆け付ける卒業生もいるそうです。

こうして六角橋では学生が“4年でいなくならない”存在となったのです。

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2023年 門出式の様子【写真提供:「まちかけ」】

逆境から生まれる絆、新たな始まり ― 「NPO法人まち×学生プロジェクトplus」設立

2020年に広まった新型コロナウイルス感染症は「まちかけ」の活動にも大きな影響を及ぼしました。毎年開催していた大きなイベントが軒並み中止となり、学生たちのまちづくり経験が継承できなくなったことに加え、聞こえてきたのは経済的に困窮している学生たちのSOSでした。自治会や社会福祉協議会、商店街やケアプラザなどが協働して学生の支援に乗り出し、食品や生活用品を支援する「まちSHOKU~困った時こそ、お互いさま~」の活動が新たに生まれました。

しかし、長期化するコロナ禍で、森さんが連合自治会会長を退いたことや、原島さんの異動も重なり、活動に大きな転機が訪れました。

2022年8月、森さんが理事長、原島さんが常任理事となり「NPO法人まち×学生プロジェクトplus」が設立されます。その後岩崎さんらOBたちも理事に名前を連ねました。後に続く学生にまちづくりの楽しさを伝え、さらに彼らが卒業後に戻ってくる場所にしたい、というのがメンバー共通の思いだといいます。

新たに事務局長となった小倉勝十さんも、団体立ち上げ直後の伝説的な数年間を知る神大OB。仕事と「まちかけ」の両立は大変なこともあるそうですが「全力を出せる対象があることで人生が豊かになります」と熱く語ります。

NPOになった「まちかけ」は、まさに意欲のある人が全力で活躍できる組織を目指します。これまでお膳立てしてもらう側だった学生も、情熱と適性があればかつての原島さんのように学生と地域をコーディネートすることもあります。

そんな学生コーディネーターのひとりで神奈川大学大学院生の井之上遥南さんは「まちかけ」最大級のイベント「キャンドルナイト」を担当し、商店街の人々や出展団体からの期待の大きさを感じたとのこと。「地域の人の温かさと応援されているという実感がうれしい。学生生活や研究だけでは知ることができなかったことです」と語ります。

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学生コーディネーター代表として語る井之上さん
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2022年 キャンドルナイトの様子【写真提供:「まちかけ」】

「まちかけ」が目指すこれから ― 六角橋から市域へ、そして全国へ

地域の実情を知る森さんは「やがて自治会の多くは活動できなくなる」という危機感を持っています。それほど地域の高齢化と担い手不足は深刻なのだとか。

そこで「まちかけ」では直接的な自治会支援に乗り出しました。役員の高齢化が進み行事の開催が難しくなりつつあった神北地区・中丸町内会では、学生らが運営に加わり夏祭りの開催に成功しました。今度は5年以上開催できなかった餅つき大会の復活に挑むそうです。

「NPO法人となったからには社会的に認められる活動を目指さなければいけません」と小倉事務局長は言います。そのうえで法人が安定して運営できる収入を上げ、事務手続きも完璧にこなす体制づくりを急ぎます。

カギとなるのは若者らしいデザインと情報発信の力です。自治会からホームページの制作・運営のサポート、そして伝統行事の記録撮影などを請け負って関係を構築し、イベントの開催ノウハウや若者受け入れに関するアドバイスの提供をしながら、その先のまちづくりにつなげていくことを見据えます。

いま「まちかけ」には神奈川大学以外の大学からも多くの学生が参加するようになっています。活動エリアは六角橋を飛び出して横浜市外にまで広がりはじめました。

“大学のあるまち六角橋”で継承されるまちづくりの若き情熱が全国へ羽ばたこうとしています。

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最後にみんなで「まちかけ」ポーズ(指で「×」を表現)

編集後記

取材に訪れた日は、2024年11月に実施した「キャンドルナイト2024」の報告検討会。
主要メンバーの理事、事務局長、学生コーディネーターの皆さんが集合しました。一人一人がそれぞれの活動や学業で多忙な中、オンラインではなく対面にこだわるのは、オンラインでは伝わらない熱量、想いの共有を大事にしているから。立場や性別・世代を超えた強い繋がりを感じました。とにかく皆さん明るく前向きで、やりがいをもって活動されていることが伝わる楽しいインタビューとなりました。

「まち」と「学生」による相乗効果は、新たなまちづくりへと繋がっています。

​特定非営利活動法人まち×学生プロジェクトplus ホームページ(外部リンク)
https://www.matikake.yokohama/

今後も横浜市市民協働推進センターでは、市内各地のさまざまな協働事例を紹介してまいります。次号をご期待ください!

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