イベントレポート

【協働トライアルセミナー2022|第1回 身近な市民協働  Event Report】

ディスカッション風景

第1回 身近な市民協働

2021年12月から2022年2月まで全5回行われた「協働トライアルセミナー2022」。当セミナーは、地域・社会をよくする活動や取り組みに関心がある方、具体的なアイデアをお持ちの方、協働の手法に関心のある方などを対象に、行政との対話のあり方や事業計画の作り方に触れ、実際の活動に活かしていただくことを目的として行われました。なお、コロナウィルスの感染を鑑み、全回オンラインで実施しました。
第1回のテーマは「身近な市民協働」。公開セミナーとして行われ、50名ほどが参加されました。その様子をレポートいたします。

 

開催概要

【開催日時】
2021年12月9日(木) 18時30分~20時45分

【テーマ】
身近な市民協働/図書館からはじまるインクルーシブ社会『りんごプロジェクト』の取り組みから

【スピーカー】
佐伯美華〔横浜市立幸ヶ谷小学校・地域コーディネーター/りんごプロジェクト メンバー〕
須藤シンジ〔NPO法人ピープルデザイン研究所 ファウンダー〕

【ナビゲーター】
森祐美子〔認定NPO法人こまちぷらす 理事長/協働コーディネーター〕

【オーガナイザー】
治田友香〔関内イノベーションイニシアチブ株式会社 代表取締役〕

 

第1回は「図書館からはじまるインクルーシブ社会『りんごプロジェクト』の取り組みから」と題し、スピーカーとして佐伯美華さん、須藤シンジさん、ナビゲーターに森祐美子さんをお招きしました。佐伯さんには、日本の図書館の現状とプロジェクトに至るまでの過程を、須藤さんと森さんからは、りんごプロジェクトが立ち上がった背景、プロジェクトの進行や日本における課題などをお話いただきました。

コンセプトは「障害のあるなしに関わらず、誰もが読書の喜びを!」

佐伯美華さんトークイメージ

まずは、佐伯美華さんからお話をうかがいました。

りんごプロジェクトはスウェーデンの公共図書館にあるりんごの棚をヒントに始まったプロジェクト。
その「りんごの棚」は、障害の有無に関わらず、子どもは皆本を必要としており、読者の体験の楽しみを知る権利があるとの考えから、子どもたちが目耳また指先で読むことができるアクセシブルな本が並んでいるそうです。

日本でもアクセシブルな本が備えられている図書館は少なくないそうですが、そのような本があること自体がまだ一般に周知されていないのが現状とのこと。また、活用のしかたがはっきりしていないこともあるようです。

佐伯さんたちメンバー6人は、2019年12月から始まった文科省との連携プロジェクトである「超福祉の学校」で出会いました。メンバーは、立場も違えば住むところもバラバラ。コロナ渦の中、オンラインで何度も話し合ったそうです。
役割はメンバーそれぞれの強みや得意なことを活かしているうちに自然に決まったとのこと。
話し合いを重ねるうちに、どこか硬い日本の図書館を変えたい、インクルーシブな図書館があったらいいと一気に話が沸き上り、「障害のあるなしに関わらず、誰もが読書の喜びを!」というプロジェクトのコンセプトは決まりました。
一人でも多くの人に知ってもらいたい、という気持ちで活動されている佐伯さんたち。2021年、2022年には実際に体験会やブース出展なども行ってきました。誰もが読書から得られる喜びや楽しみ、情報を得られるような社会を目指して今後も活動される予定です。

不平不満を言語化し、あらゆるステークホルダーを巻き込む

須藤シンジさんトークイメージ

次に、須藤シンジさんからお話をおうかがいしました。

「超福祉の学校」というプロジェクトをスタートされたのがいまから5年前。
渋谷の超福祉展で、直近3年間文科省主催で行ったイベントが「超福祉の学校」でした。
「先進諸外国から50年遅れている日本をどうにかするために一緒に考える機会をください」と文科省に打診をして実現したもの。不平不満を入り口に、自分たちならどう解決するかを提案するというプロジェクトだったそうです。現状の不平不満を言語化することが大事、ふんわりとした良い未来を作ろうという議論だけでは実現にまで飛びませんと、須藤さんから鋭いご指摘。

提案をするのは「私たち:We」であるという考えから、働く親、障害がある人ない人、行政、企業など、このあらゆるステークホルダーを巻き込んで、一緒に提案した未来づくりのプロジェクトだったそうです。その中から生まれたプロジェクトの一つが「りんごプロジェクト」でした。

最初に文科省に提案をした時には約230人いたそうですが、そこから5~6名のグループが6つ残っていて、佐伯さんたちのように明確に説明でき、他を巻き込んで地面に根を張ろうとしているグループはりんごプロジェクトを含め3グループほどだそう。

地方自治体、国の未来に暗澹たる気持ちだそうですが、協働とは課題感をいかににこやかにワクワクしながら展開するか、であると須藤さんは締めくくられました。

思い続けることの大切さ

森祐美子さんトークイメージ

ナビゲーターの森祐美子さんからも「超福祉の学校」プロジェクトをどう進めていったのかについてお話しいただきました。

プロジェクトにとって大事だったのがビジョン。これまで福祉や教育など、それぞれの枠組みの中だけで議論されてきたものを、様々なステークホルダーが新しい選択肢を作っていくという点がポイントだったそうです。

最初、対話に多くの時間をかけ、何に引っ掛かるっているのかととことん話し合い、それぞれの引っ掛かりポイントに共通しているところからチームをまとめていったという森さん。
約9ヶ月かけて課題を言語化し、関心が近い人と対話を重ねてもらい、自分の気付きだけではなく、関心が近い人が何を感じているかを聞くことにより、さらに引き出されていったとのこと。

企画に落としてくタイミングでは、ワークシートを使用。課題解決後の姿、理想の姿になるためには何が障壁なのか、また、当事者だからこその専門性も洗い出し言語化。その上で、その障壁にはどのような解決策が効くのかを明文化していったこともプロセスの中では大事だったそうです。さらにところどころでプロジェクトの内部または外部に対して中間発表を行い、過程を多くの人にオープンにしブラッシュアップする機会を設けたそうです。

最初に全員が集まったとき、文科省の調査で集まった声を見てもらうことからスタート。これは誰かの声を出発点にする事が大事だから。そして、誰かの思いに対して何が作れるかということを常に考え続けることが必要だから、と森さんは言います。長期プロジェクトだと最初の熱い思いも徐々に元気がなくなっていく、そういう時にこそ出発点を据えたことは大事だと思ったそうです。

不平不満を言語化し、あらゆるステークホルダーを巻き込む

ディスカッション風景

それぞれのゲストトークの後、治田さんを加えフリーディスカッションを行いました。その後、お一人ずつ当セミナーについての感想と参加者の皆さんへのメッセージをいただきました

佐伯:
プロジェクトに参加した当初は心の中にバリアがありました。自分は障害者のいる環境にいなかったからということもあります。それでも、みんなと一緒にやるうちに、もっと知りたいという気持ちになり、乗り越えられたような気がします。
須藤さんには普通ではなく変わったことを考えるように言われましたが、それがいい刺激になりました。普通では広がらないということで、須藤さんの発破のかけかた方はすごかったです。
本日は久しぶりに須藤さんの声を聞き、原点に帰れたように思います。

森:
須藤さんはまず日本ではまだ見たことがない選択肢を見せてくれました。自分はここまでしかできないと思い込んでいても、すでにできている国もあるしできている人もいる、と話されていたことが印象に残っています。
新しいことをやろうとすると制約だらけです。お金はない、場所がない、集まれない、それに加えてこの2年のコロナ禍。でも、制約を理由にしないで、できることからやってみる、形にするために考えて動き続ける、そのようなことを今日はあらためて大事だと思いました。
協働しようと思っても、自分は何ができるかわからない、専門性は無いと考えてしまうかもしれません。けれど、もっと知ろうとすること、自分の体験そのものに専門性があること、その力が協働を進めることになります。何か引っかかるものがあれば、それがもう出発点です。

須藤:
おそらく日本では教育や福祉に携わっている人のほとんどが、日本のことしか知らないでしょう。
結局、どれだけ自分ごととしてその物事に取り組むか、という話ではないでしょうか。
国、地方行政、我々市民、一人ひとりが具体を立ち上げて行くことにこそ、可能性を高めると信じています。
横浜や神奈川、日本にとらわれずに世界の今を見て欲しいと思います。今や後進国だと思っていた国々は軽やかに日本を過ぎ去り追い越しています。協働する仲間として他国の皆さんをみたときに、日々の気づきや物事に繋がっていくと思っています。

治田:
行政が提供するデータを、私たち市民としてはどのような視点で切り取って、どうやって迫っていくか、そしてどう解決策についてやり取りを重ねていくかを考えなければならないと思います。
また、市民一人ひとりがそれぞれ専門性をもっていて、それを尊重し組み上げていくことがとても大事だとも思いました。
そういった機会をこの「超福祉の学校」は提供していると感じながら本日は聞いておりました。
発意が出てくるまでの成長過程を本当に大事にしているということがよくわかりました。

皆様、本日はどうもありがとうございました。

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