第4回「市民協働のプロセスを読み解く」協働事業が生み出す価値とは何か
2021年12月から2022年2月まで全5回行われた「協働トライアルセミナー2022」。当セミナーは、地域・社会をよくする活動や取り組みに関心がある方、具体的なアイデアをお持ちの方、協働の手法に関心のある方などを対象に、行政との対話のあり方や事業計画の作り方に触れ、実際の活動に活かしていただくことを目的として行われました。なお、コロナウィルスの感染を鑑み、全回オンラインで実施しました。
第4回のテーマは「市民協働のプロセスを読み解く」。その様子をレポートいたします。
開催概要
【開催日時】
2022年2月9日(水) 18時30分~20時45分
【テーマ】
市民協働のプロセスを読み解く/協働事業が生み出す価値とは何か・市民協働事業プラン中間発表
【スピーカー】
小林範和〔NPO法人鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)事務局長〕
岩室晶子〔NPO法人ミニシティ・プラス事務局長〕
【オブザーバー】
中島智人〔産業能率大学教授・前横浜市市民協働推進委員長〕
【ナビゲーター】
鈴木智香子〔NPO法人街カフェ大倉山ミエル理事長・協働コーディネーター〕
【オーガナイザー】
治田友香〔関内イノベーションイニシアチブ株式会社 代表取締役〕
第4回は、「自治体とNPOの共創・協働をすすめる仕組み」と題し、スピーカーとして小林範和さん、岩室晶子さんをお招きし、鈴木智香子さんにナビゲーターとして参加いただきました。小林さん、岩室さんともに、それぞれNPO法人でご活躍されています。お二人からは協働事業の具体的な取り組みについてお話いただきました。横浜市内の活動ということもあって、より身近な参考になるお話を伺うことができました。
「流域思考」という考え方で巻き込む
まず、NPO法人鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)事務局長である小林範和さんに活動についてお話しいただきました。
小林さんたちは鶴見川流域をフィールドに活動をされています。流域とは、ある川に降った雨が集まる大地の広がりであり、雨が降るところであれば全て流域に属するとのこと。鶴見川流域は一級河川の中でも最も人口密度の高い地域で、この流域はバクの形に似ていることから「鶴見川流域はバクの形」というキーワードを使っているそうです。
総合治水対策は、「河川対策(河川法)」、「下水道対策(下水道法)」、及び法律にない「流域対策」で行われています。ただし、「流域対策」は法律にはないため河川管理者である国交省、自治体の強制力は弱く、企業や学校も含め流域市民の協力が必要であるといいます。一方でまた、市民団体が緑を守ることは、防災だけではなく自然保護にも繋がるということから、総合治水対策を応援する動きがうまれ、TRネットワークが発足したそうです。
かつて典型的な暴れ川だった鶴見川は、上流は東京都町田市、中流から下流にかけては横浜市、川崎市が含まれますが、行政区ではなく「バクの形」で活動しているのは、自然環境・防災を流域という自然の単位で考え問題を解決していく「流域思考」がベースになっているからだそうです。官民一体の総合治水対策を進めてきた結果、平成以降は以前と同様の降水量にもかかわらず被害は減っており一定の成果を上げているとのこと。
小林さんたちは、行政との協働では国全体の流れの中で、鶴見川を管轄する京浜河川事務所にどう対処すればいいのか、自分たちが活動している流域とどうリンクするのかを考えて提案をしているとのこと。いままで培ってきた信頼関係によって行政側から相談されることも増えたそうです。
TRネットは大小含め45団体で構成されていますが、活動にあたり基本姿勢を決めているとのこと。それは、「持ち場無しに連携無し(必ず自分の持ち場を決めて活動する)」「団体ごとの得意分野を活かし、役割分担をする」「パートナーシップを重視し、合意形成型の活動をする(反対運動はしない)」というもの。
持ち場が無い人には発言権がなく、何もやっていない人はお断りをするというルールがあるそうです。代表は、大学教授であるものの、自ら草も刈り、杭も打ち、泥まみれで地面の世話をしているそう!だからこそ、皆が信じてついていくといいます。流域に自分の持ち場を決めてきちんと世話をして、その上でお互いに応援したり情報交換をしたり、それぞれの得意分野で助け合っているというお話でした。
協働は人と人との信頼関係から生まれる
次に、NPO法人ミニシティ・プラス事務局長の岩室晶子さんから活動についてお話を伺いました。この団体はNPO法人「I LOVE つづき」から派生したNPO法人で、「I LOVE つづき」は街のフィールド調査から見えてきた課題を解決するためのプロジェクトからスタートした団体とのこと。ご自身もその活動に参加し、フィールド調査の結果が環境改善に繋ったことで、市民活動が街の課題解決に繋がることに気づき、面白さを感じるようになったそうです。
とはいえ、「I LOVE つづき」において行政との協働をした当初は、協働が何かもわからず、漠然と状況を受け入れていたそう。それでも、自分たちは成長していく必要があったし、メンバーもパワフルで自分たちのやりたいことがあり、それにお金がついたことが嬉しくて、その何十倍もの仕事をしたと思っているのだそうです。
その後、子ども関係の事業を機に横浜市や神奈川県など広範囲の活動を行うようになったため、ミニシティ・プラスとして独立。県と一緒に「新しい公共の場づくりのためのモデル事業」へ協働提案を行い、採択。採択された要因の1つは行政の視点からの協力があったことだといいます。
さらに、神奈川県青少年育成課との共同提案を行い採択された際は、青少年育成課と協働の相手や事業の内容を調整したそうです。協働事業の提案をするときは、どこの部署のどういう課題が自分たちの課題と合致するのかを調べて取り組むことが大事であるといいます。
これまで活動をしてきて、行政だけでは上手くいかなかった事業も、子どもたちと一緒に活動することにより、商店街の人たちが喜び、地域の人たちも喜び、地域の子どもたちが商店街に来るようになり、常に子どもたちがそこにいるようになっていくということが、年数を経るごとにわかってきたとのこと。「これは絶対やらなければならない」という思いが今でも続いているといいます。
自団体だけでできることは少ないため、常にいろいろな人たちと一緒にやっているという岩室さん。広げることを恐れないほうがよいと力説。反対意見もあるものの、思いもしなかった角度からの意見は大事な材料となってくれるといいます。協働の相手とは何を目的に何をやっているのかをお互いに意識して話し合うことが重要。担当者が数年で変わる行政とも常に認識を合わせるようにしているそうです。岩室さんは、結局のところ人と人の信頼関係であるとお話を締めくくられました。
協働が生み出す新しい価値
鈴木小林さんの団体の基本姿勢は、まさに協働の精神だと思いました。反対運動ではなく提案で解決ができるということですね。岩室さんの活動も、費用対効果も高いですが、自分たちのために頑張っているところが面白いところだと思います。
中島お二人の話をうかがって、目標が明確であることと、それを協働で実現したいという思いが根っこにあると思いました。よい協働というのはそれぞれの主体が一緒に目標のために作戦を考えることではないでしょうか。行政もともに課題を解決したいという思いで共通しています。行政が協働する理由としては、市民活動団体が行政とは違うことができるという点が大きいといえます。
岩室横浜は現在の市庁舎になって、物理的に気軽に話ができなくなってしまいました。市民協働推進センターで様々な部署や思いもかけない部署の担当者が在席するのも面白いのではないでしょうか。また、協働の相手として子どもも加えて欲しいと思います。彼らは選挙権がなくても市民の一員です。将来の街づくりを担う人材を育てていかなければなりません。
鈴木新しい市役所の下にできた市民協働推進センターですから、そこにコミュニティカフェのように様々な人が訪れて、市役所の方に声がけができるような風通しのよい状態が日常的につくれたらよいですね。
小林私は横浜の壁を取り払って欲しいと思います。地方自治の精神から難しい部分もあるかもしれませんが、市民側は行政区の市民であると同時に鶴見川流域市民という考えを持っています。横浜、町田、川崎みんな一緒に課題を解決するようになってもらいたいものです。行政には限界もありますが、その橋渡しを市民が担うことも協働であると思っています。
中島協働には新しい価値を生むことが求められています。新しい価値を生むこと自体を協働と考えるのが自然とも言えますが、新しい価値は模索していく中で生まれていきます。その先に協働や事業が起こるという点に市民活動団体が本当に必要とされる理由があります。さらに、協働が生み出す価値はもちろんのこと、NPOが持つ価値も相手によって見え方が変わるという点を意識したほうがよいと考えます。
治田新しい価値が生まれることよって多様な人が利益を受けますが、NPOもそれを意識して様々な人たちとどのように関わりを作っていくかを考えるべきではないでしょうか。NPOや市民活動団体が持つネットワークでの協働、同質な人たちとの協働、異質な人たちとの協働、それぞれ大事であると思います。