第3回 自治体とNPOの共創・協働をすすめる仕組み
2021年12月から2022年2月まで全5回行われた「協働トライアルセミナー2022」。当セミナーは、地域・社会をよくする活動や取り組みに関心がある方、具体的なアイデアをお持ちの方、協働の手法に関心のある方などを対象に、行政との対話のあり方や事業計画の作り方に触れ、実際の活動に活かしていただくことを目的として行われました。なお、コロナウィルスの感染を鑑み、全回オンラインで実施しました。
第3回のテーマは「自治体とNPOの共創・協働をすすめる仕組み」。その様子をレポートいたします。
開催概要
【開催日時】
2022年1月26日(水) 18時30分~20時45分
【テーマ】
自治体とNPOの共創・協働をすすめる仕組み/岡山の市民協働推進の現場から・横浜における共創の今とこれから
【スピーカー】
石原達也
〔NPO法人岡山NPOセンター 代表理事・公益財団法人みんなでつくる財団おかやま 理事・NPO法人みんなの集落研究所 代表執行役・一般社団法人全国コミュニティ財団協会 理事/事務局長など〕
中川悦宏
〔横浜市政策局 共創推進室共創推進課・事業構想大学院大学 事業構想研究所 客員フェロー・自治体通信総合研究所 客員研究員〕
【オーガナイザー】
治田友香〔関内イノベーションイニシアチブ株式会社 代表取締役〕
第3回は、「自治体とNPOの共創・協働をすすめる仕組み」と題し、スピーカーとして石原達也さん、中川悦宏さんをお招きしました。石原さんからは岡山での協働、中川さんからは横浜での共創についてそれぞれお話いただきました。盛りだくさんの話題とワクワクする内容で元気と勇気をもらえるような回でした。
岡山の市民協働推進の現場から:「自然治癒力の高いまち」を目指す
「社会の仕組み屋」として、新しい仕組みを作っていくことを民間サイドから活動している石原さん。現在の活動に繋がるきっかけは、大学時代の活動で身近に困窮している子どもに出会ったことでした。この経験から、皆がハッピーになることが自身の行動理念になったといいます。
組織のスローガンは「自然治癒力の高いまち」。様々な問題を行政に頼る(治療)だけではなく、みんなの力で治せる、ケガや病気になりにくい、そのような街を目指しているとのこと。また、行政やNPOなど様々な組織の現状から、組織間の縦割りを越えて話し合いをする機会の必要性を感じ、2016年には市民リードで「協働まちづくり条例」の全面改正を実現。その条例にある“多様な主体の協働”が現在のアクションの根拠になっているといいます。
さらに「課題解決を促進するスキーム」を決めて活動しているという石原さんたち。このスキームは単に協働の実践というだけではなく、課題解決及び仕組み化を目的としているそうです。協働事業は当事者または当事者に近い人が何らかの形で関わることが重要。当事者を巻き込み一緒に解決していくことが協働事業の醍醐味でもあるといいます。
もちろん主義や主張が異なる人もいるものの、皆がよいと思える方向を考えながら進んできたそうです。経験を重ねるごとにいろいろとやり易くなってきたことも事実。成長し実績を積み、その実績や実行力をみせていくことがまた必要であると石原さん。
協働事業とは、そこに困った人がいるときに、行政、既存福祉事業所、町内会、企業単体では対応しきれないものを対応すること。一緒にやることによりあらたな施策や仕組みが生まれてくる可能性を期待しているということでお話は締めくくられました。
横浜における共創の今とこれから:対話によって連携していく
次に横浜市政策局 共創推進室共創推進課 中川悦宏さんより横浜における協働について事例を交えお話しいただきました。
横浜市の共創の定義は、「社会課題の解決を目指し、民間事業者と行政の対話により連携を進め、相互の知恵とノウハウを結集して、新たな価値を創出すること」。“対話”が非常に大事なポイントだといいます。
また、横浜市が共創・協働で目指すもの(中期計画上の基本姿勢(~2021年))として、「SDGsの視点を踏まえた取組み」「データ活用・オープンイノベーションの推進」「地域コミュニティの視点に立った課題解決」が挙げられています。自前ではなく他者と協働・共創しながら起こしていくことが市の総合計画に書かれているとのこと。
横浜市の目指す共創とは、産(市内外の企業)、官(市役所などの行政機関)、学(大学・専門学校等)、民(NPO・地域団体等)がネットワークを組み、お互いを知り、共通目的を見出し、役割分担をして、どのようなリソースが必要か、対話や議論をしながら、新しい取組みでオープンイノベーションし、質の高い市民サービスの提供、ビジネスチャンスを生み出し、地域を元気にする、というwin-winな関係を創出すること、だそうです。
より細かく見えにくい多様な課題に対しては、中央集権的なアプローチが必ずしもベストということではないといいます。そのため、アウトソース的思考ではなく、対等な立場、信頼関係が重要であるという考え方は一貫しているそうです。
横浜市では「共創推進室」が公民間連携のハブの役割と手法の適切な選択の推進を担い、官民間のコーディネートを目的とした窓口「共創フロント」を設置しているとのこと。相談や提案を常時公募しているとのことでした。
主役は、市民、NPO、企業
石原岡山では、大企業だけではなく地場の中小企業と連携することはありますか?
中川市内の中小企業との連携もあります。ビジネスに繋げられるようなコラボレーションのきっかけづくりも行っています。
治田これからは市民サイドも対話しながらできることを見つけ出す、そういう時期になってきたのではないでしょうか。大手企業は横浜市との仕事を狙っているだろうし、市民もしたたかに企てていくという視点が必要です。
石原行政は、なるべく多くの地元の企業やNPOが関われるルール作りをすることが必要になるし、そのルールが更新されればまた新たなことが出てくるのでしょう。
中川石原さんは、仕組みの経年劣化を防いだり、手段の目的化を克服したりするために気を付けていることはありますか?
石原ある程度先が見えたら、自分自身は一度手放すようにしています。ですが、手放した後にも客観的な立場から意見を言う“嫌な奴”になるように心がけています(笑)
治田お二人にお尋ねします。対話を重ねるうえで気を付けていることや課題はありますか?
石原いろいろな人と話をすることで、粗や問題など多面的に見えてきます。それによって懸念点が除かれることがあります。難しいのは、議論の場に入ってほしい人こそ入ってきてくれないこと。その対応策としては、客観的な調査を行い全体の意見の方向性を明らかにしたうえで納得してもらったり、必要であれば何度も出向いて話をしたりしています。もしも話し合いのテーブルに着かなかったとしても承知してもらうことが大事です。
中川前向きに聞く余地がある人にまずは話を持っていくようにします(笑)。案件の広がり具合によって調整もします。大事なのは、共通目的が得られるか、リソースが揃えられるか、調達できる人材がいるかということです。
治田最後に協働とか共創から生まれる価値や目指すもの、そしてご自身の思いを教えてください。
石原“あなたは当事者で、この街を変えたいと思ったら自分でやっていいし、その権利がありますよ”と急に言われてもなかなか難しいものです。それを仕組みとして提供するのが共創・協働です。主役は市民、NPO、企業であり、より取り組み易くするためにルール化しているということです。岡山のNPOセンターではオンラインでセミナーや交流会をやっているので、どうぞ覗いてみてください。今は可能性が広がっている時代ですし、やる気とアイデアがあればやれることはたくさんあります。是非、新しいことやチャレンジを皆さんと一緒にやっていきたいと思います。
中川行政にとっては経営の改善が目的ですが、個人的にはもう少し公共というものを再定義していきたいと考えています。生活が豊かになるうえで必要なもの、皆がメリットを感じているから維持するもの、それらの納得感をどう作っていくかは、活用や取組、それを評価する軸などによります。今はコロナ禍で難しいこともありますが、皆さんとの繋がりは希望だと思います。一過性のものにせず、蓄積して、小さくても形にしていくところまでを一緒に目指していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。