取組紹介

【訪問レポート】「NPO法人街の家族」移転後の新たな“おうち”へ~世代を超えて、地域で育ち合う場をつくる~(青葉区)

訪問レポート 街の家族のバナー

はじめに

横浜市青葉区奈良町にあるコミュニティハウス「街の家族」。東急電鉄こどもの国線「こどもの国」駅からバスで15分ほどの静かな住宅街の中に位置するこのコミュニティハウスは、同名のNPO法人によって運営されています。 

横浜市市民協働推進センター(以下、センター)は、2024年5月に「街の家族(※移転前)」を訪問。その様子は、「【訪問レポート】「NPO法人街の家族」~まちの大家族のような、多世代交流の場~(青葉区)」からご覧ください。 

その後、同年7月に「街の家族」は現在の拠点へお引っ越し。移転後の様子を知るために、センターは2025年8月に新しい“おうち”へ足を運びました。今回お話を伺ったのは、前回もご登場いただいた理事長の押久保美佐子さん、副理事長の磯島弥生さん、理事の坂田美絵さんに加え、同じく理事を務める秋山紀子さんを含む4名です。移転後の活動の動向、力を注いでいる事業、今後の目標など、今回のレポートでは「街の家族」の現在の姿をより詳しくお届けします。 

訪問レポート 街の家族 理事長押久美砂子さん
訪問レポート 街の家族 副理事長磯島弥生さん
訪問レポート 街の家族 理事坂田美絵さん
訪問レポート 街の家族 理事秋山紀子さん
訪問レポート 街の家族 理事川島裕子さん

「街の家族」ってどんな場所? 

最初に、「街の家族」の来歴を振り返りましょう。「街の家族」が活動を始めたきっかけは、東日本大震災の経験です。地域ぐるみの緩やかなつながりの大切さを感じた人々が集まり、委員会を立ち上げました。2012年から地域の空き家での自主的な活動を経た後、2020年にNPO法人を設立。その後、前拠点での契約満了に伴い、2024年7月から数ブロック先の別の空き家へと拠点を移転し、現在に至ります。 

三世代が集まる食事の場の提供、親子の遊び場、習い事教室、シニア向けの健康イベントなどを通じて、これまでに関係がなかった地域の多様な層がともに時間を過ごすための活動を行っています。拠点は変わっても、子どもから高齢者までが気軽にコミュニケーションをはかる場として地域の中で親しまれているのです。 

訪問レポート 街の家族 新しい拠点の外観
新しい拠点の外観

コミュニティハウスの場を生かしながら主に取り組むのは、以下3つの事業です。その幅広さから、多世代の人生を見据えていることが分かります。 

・乳幼児一時預かり事業「まんまるーむ」(2021年~) 
・フリースクール事業「WA・Lau(わらう)」(2024年~) 
・介護予防事業「ニコニコ健康クラブ」(2022年~) 

真摯な姿勢が開いた、新しい拠点への道 

「街の家族」から「次の拠点のための空き家を探している」という旨のご相談をセンターにいただいたのは、2023年12月のことです。横浜市が管理する「空家マッチング制度」の登録物件の中には条件に適うものが見つからなかったため、次の一手としてポスターやチラシを配布して活動を地域へ広く周知させることを提案。空き家だけをすぐに探すのではなく、活動に賛同して物件を紹介してくれる方との関係性を築くことをおすすめしました。 

「街の家族」はこの提案をすぐに実行に移し、自作のポスターやチラシを地域へ配布しました。その結果、チラシを偶然見かけた現拠点のオーナーの方から、約10年間使用していなかった空き家をご提供いただくことができました。 

その後センターでは、「街の家族」とオーナーの双方へ、次の段階へスムーズに進めるよう継続的なサポートを行いました。地域活性化に貢献する施設を対象とした空き家の改修費補助金や、空き家活用の専門家派遣制度なども紹介。それらを上手に活用することで現在の拠点のリフォームを進め、無事に新たなスタートを切ることができました。「街の家族」の真摯な行動が、新しい拠点への道を切り開く力になったといえるでしょう。 

新しい“おうち”へ行ってみた 

新しい拠点は、前の拠点のほど近い場所にある2階建ての一軒家です。まず扉を開けて目に飛び込んでくるのは、靴が何十足も置かれた玄関の光景。まるで大家族の家に来たかのような感覚を得ることができます。玄関では「街の家族」を支えるスタッフの名前と写真が掲載されたウェルカムボードが出迎えてくれます。取材時では、子どもが描いたかき氷の絵が下駄箱の壁に貼られており、季節ごとに掲示物が変わっていく様子を想像するのも面白く感じられました。 

玄関から左手にあるリビングには、3つの大きな窓があり、緑豊かな庭を眺めることできます。天井が高く、大人が数人入室しても狭さを感じることはありません。子どもと大人が入れ替わるように次々と訪れ、活気あふれる風景が広がっています。 

訪問レポート 街の家族 リビングでワイワイ歓談中
リビングでワイワイ歓談中(画像提供:街の家族)

「街の家族」では、1階の設備(リビング、和室、パントリー付きキッチン、洗面所、倉庫、洋室)を活動場所として借りています。オーナーの方とは、信頼関係を築けていると感じることが多いそうです。 

「理事同士の打ち合わせのために、空いている2階を使わせていただくことがあります。そのお礼として、こちらで作った料理をお裾分けするんです。同じ地域に暮らしているからこそ、オーナーさんとはお金だけでなく気持ちでもつながっていたいと思います。金銭面のみで成り立つ人間関係だけでは、なんだか味気ないですよね」と押久保さんはいいます。 

訪問レポート 街の家族 理事長押久保さんが語る様子

地域での子育てを支える「まんまるーむ」 

移転後、特に力を注ぐ事業のひとつが、認可外保育施設「まんまるーむ」で未就学児を一時的に預かる取り組みです。保育士としての経験が豊富な磯島さんが中心となり、2021年から認可外一時保育事業に着手。その成果が評価され、2025年4月から横浜市の事業として正式に採択されました。 

この採択により、活動には大きな変化が起こりました。市内在住者の利用料が1時間800円から300円に引き下げられ、利用者の負担がより軽減されることになりました。またもともと互助的な取り組みとして始まったこの事業が、スタッフに対する報酬が支払えるほど持続的な運営ができるまでに成長したのも大きな変化です。運営体制は元利用者で保育士資格を持つスタッフに加え、支援員の資格を取得したメンバーで構成されています。 

保育は平日8時30分から16時30分まで行われ、1日の定員は未就学児6人。リビングの横にある和室が保育室として使用されており、寄付などで集められた多彩なおもちゃや絵本が並んでいます。リビングの外にはもうひとつの保育室があり、食事や昼寝の時間に使用されています。民家を保育施設として活用するにあたり、磯島さんがオーナーの方と行政へ説明を重ね、改修を一歩ずつ進めてきました。

子育てに専念している保護者を支援する場所やサービスは今でも限られているようで、最初に面談へ来る人の中には、子育てに苦しみ、追い詰められている人も少なくないそうです。サービスを利用して元気を取り戻す様子を見られることが、やりがいにつながるといいます。「子育てを一人で頑張っているお母さんやお父さんを支えられる場を作りたかったんです」と、「まんまるーむ」に込めた思いを磯島さんは語ってくれました。 

利用目的は、緊急時から、仕事や息抜きの時間づくりまで多岐にわたり、それぞれの生活に合わせて、地域の中で子どもを自由に預けられる場所として機能しています。磯島さんは「ありがたいことに今では予約が取りにくくなっています。うれしい悲鳴です」と笑顔で話してくれました。 

訪問レポート 街の家族 新設したウッドデッキで大はしゃぎ
新設したウッドデッキで大はしゃぎ(画像提供:街の家族)

地域のみんなで子どもを育てる

「まんまるーむ」は、一時預かり保育を実施するだけの場所ではありません。多世代が集まる「街の家族」で行われるからこそ、子育てに関わりのない地域の人々が自然とそばにいる環境の中で、子どもが育つことができます。多世代がともに過ごす場での保育について、磯島さんは以下のようにおっしゃいました。

「自分の子どもを見ていると、自己肯定感がとても高いんです。それは『街の家族』で地域の人々にかわいがられながら育ててもらったからだと思います。多世代に囲まれて保育ができることの意義や利点を、多くの方々に感じてほしいです」

訪問レポート 街の家族 理事長押久保さんと副理事長磯島さんが語る様子

同じく「街の家族」の中で子育てを経験している坂田さんも、このようにお話しくださいました。

「私も地域の中で親子一緒に成長させてもらっています。家族ではない他者と一緒に子どもを育てることで、親しき中にも礼儀ありという環境で自分の行いを冷静に振り返ることができます。子育ての少し先輩から大先輩まで、多様な人からいろいろな知恵を教えてもらえるのも良いところです」

訪問レポート 街の家族 理事坂田さんが語る様子

一時預かり保育を始める際、高齢者と乳幼児が同じ場所で過ごすことに対して不安が大きかったそうです。しかし実際に事業がスタートすると、高齢者からは「子どもたちの声を聴くのがとてもうれしい」という声が続出。子どもと触れ合う経験が高齢者の生きがいにつながっていることを、理事のみなさんは実感しています。

訪問レポート 街の家族 みんなで一緒に楽しみ合う様子
ここではみんなで一緒に楽しみ合う(画像提供:街の家族)

フリースクールで、子どもが笑える学びの場を

力を注いでいるもうひとつの取り組みが、小学生を対象としたフリースクール事業です。この事業は、秋山さんが中心となって運営しています。発達障害があるご自身のお子さんが小学校2年生のときに不登校になったことがきっかけで、保護者の会を立ち上げました。参加する方々が徐々に増加する中で、同じ悩みを抱える家族が数多く存在することに気づきました。

こども家庭庁では、不登校児童生徒の学びの場の確保について施策が進められていますが、生活の現場では制度が十分に整っているとはいえないと感じるそうです。「現時点で働きかけが必要な子どもがあっという間に大人になってしまう」という危機感を抱き、2024年にフリースクールを開校しました。「子どもが学校へ行くのが難しいとき、地域の中で学校以外でも学べる場の選択肢がひとつでも増えたらいいなという思いで運営しています」と秋山さんはいいます。

訪問レポート 街の家族 理事秋山さんが語る様子

現在は、「こどもの国学童クラブ」で水曜日に授業を実施。運営は4名の有償ボランティアが担っています。授業内容は外遊びや虫取りなど体を動かすような体験学習が中心です。週4日は学校に通いつつ、水曜日だけフリースクールへ足を運ぶ生徒が多いです。

「不登校」とひとくくりに語られがちですが、当事者によって不登校の理由や外出への積極性などは全く異なります。この場所にも行けなかったという経験が子どもの自信喪失につながらないように、運営では言葉遣いや態度などに細かく配慮しています。「運営方針の絞り込みや資金調達をはじめ課題は多いのですが、仲間や子どもとともにその都度悩みながら持続的な形を模索中です」という秋山さん。坂田さんも「大人が悩みながら挑戦する姿を子どもに見せられるのも、『街の家族』での活動の魅力です」と続けてお話しされました。

子どもも大人も、次の担い手へ

押久保さんは、「『街の家族』の誇りは、ここに関わってくださる人々の力です」と語ります。驚くべきことに、これまでスタッフの求人募集を行ったことは一度もありません。「街の家族」の利用者が自然と次の担い手になるため、スタッフは自発的に集まってきます。

一般的な会社や団体では、若い世代の意見が反映されにくいことは少なくないですが、「街の家族」では、むしろ若い世代の挑戦を応援する土壌があります。若いスタッフが地域で実現したいことを提案すると、ベテランのスタッフが「まずやってみたら?」とそれを後押し。そこから目標を実現できるように一緒に協力し合う体制が整っているのです。若い世代の芽を育てようとする風土が、次の担い手が自然と集まる仕組みを支えているのでしょう。

訪問レポート 街の家族 クリスマス会
「街の家族」でクリスマス(画像提供:街の家族)

次の担い手は、大人に限りません。子どもの中からもその兆しが見られました。取材中、幼稚園児から中学生になった現在まで通い続けている利用者との出会いがありました。「街の家族」は家でも学校でもない「第3の居場所」であると話してくれました。

学校へ通うのが苦しかったとき、「街の家族」へ遊びに来たら「窓拭きをして!」と急に仕事を任されたエピソードも。自分が悩んでいる事柄から少し自由になり、自然な形でその場にいられることに居心地の良さを感じたそうです。「高校生になっても遊びに来たい」という言葉に、理事のみなさんはとてもうれしそうな表情を浮かべていました。

「街の家族」の未来へ

「街の家族」が現在目標にしているのは、3つの事業を持続的に運営することです。特にフリースクール事業は、学童期の子どもの居場所の選択肢を広げることに直結します。学校に通えるかどうかにかかわらず、学童期から青年期の子どもが主体的に活動できる場自体が限られていることが地域の重要な課題です。この課題に応える可能性についても話し合われていました。

加えて、男性の利用者を増加させることも目指しています。現在の利用者の大多数が女性ですが、地域で孤立している男性を巻き込むための仕掛けを考え中です。手始めに、利用者の家族のお父さんに町のお祭りのバザーで売り子として活躍してもらったそうです。センターからも、男性を巻き込む工夫についてアドバイスさせていただきました。

最後に、押久保さんは次なる夢を教えてくれました。

「どのような人でも気軽に来られる『みんなの食堂』を開くのが次の夢です。『街の家族』では日中にランチを提供していますが、働く世代や単身者の男性はなかなか参加できませんよね。子ども、おじいちゃん、おばあちゃん、働いている人、ファミリー、どんな人でも気軽に立ち寄り、多世代と食事を楽しんで帰宅する。それができる場所が地域の中でもうひとつ作れたらいいですね」

三世代がつながる豊かな暮らしに向けて、「街の家族」は新たな拠点で歩みを進めています。

訪問レポート 街の家族 みんなでごはんを食べる様子
みんなで食べるごはんはおいしい(画像提供:街の家族)

編集後記

「街の家族」は 10 年以上にわたり活動を続けてきましたが、地域から様々なご意見を受け、悩み迷うこともあったそうです。そうしたとき、地域の方へ挨拶をしたり、近隣の方へ声かけをしたり、小さな働きかけを積み重ねることで、少しずつ理解してくれる人が増えていきました。

利用者や担い手、近隣住民など、関わる全ての人に対して丁寧で謙虚な姿勢を貫いてきたことが、次の世代を巻き込む力につながっているのだと思います。世代を超えて人と人が協力し合い、それぞれが自分や自分以外の可能性を信じて生きていくための場が、ここにはあります。

取材終了後に、名物の日替わりランチをいただきました。この日の大人用メニューは、ロールキャベツ、ナスとブロッコリーのお浸し、サラダ、ライス、コーヒーゼリーの5品。子ども用メニューには、特製「北海道チャーハン」。サケフレークとコーン、バターで炒めたチャーハンに、ポテトフライが添えられていました。取材時期が夏休みだったこともあり家族連れの姿が多く、顔なじみ同士がおしゃべりを交わす温かい雰囲気の中で、食事を楽しむことができました。

訪問レポート 街の家族 今回の取材でいただいたランチメニュー
今回いただいた絶品のランチメニュー
訪問レポート 街の家族 みんなで記念撮影
「街の家族」のみなさんとセンタースタッフで記念撮影
NPO法人街の家族 ホームページ(外部リンク)

今後も横浜市市民協働推進センターでは、市内各地で活躍される団体の皆様の取組を紹介してまいります。次号をご期待ください!

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