取組紹介

【協働のたね】“はざま”の少年少女が「生きたい」と思える社会を創る

協働のたね “はざま”の少年少女が「生きたい」と思える社会を創る バナー

はじめに

虐待や貧困、ヤングケアラーなど、若者を取り巻く問題はますます複雑になっています。その中では、既存の支援のカテゴリーや制度の“はざま”にあり、表面化しにくい課題や悩みを抱える少年少女も少なくありません。そうした少年少女と共に活動する団体が、「認定NPO法人 第3の家族」です。

2021年に任意団体として活動を開始した第3の家族は、同年にオンラインの掲示板「gedokun」を立ち上げ、2022年に情報サイト「nigeruno」をリリースしました。2023年には団体をNPO法人化。現在はオンラインサービスの提供をはじめ、少年少女にとってつらい行事や時期を一緒に過ごすイベントの運営、さらには調査・研究を通じた政策提言にも取り組んでいます。

「寄り添わない支援」という独自のコンセプトのもと、第3の家族が目指すのは少年少女が自分に合った方法で社会とつながりを再び育んでいくこと。今回は代表の奥村春香さんと対話しながら、団体の成り立ちや活動に込めた思い、これからの展望について伺いました。さらには「協働のたね」として、多様な主体との連携の広がりにも触れています。

1.オンラインでのサポートに込めた思い

思いを吐き出すためのオンラインの居場所

――それでは、最初に自己紹介をお願いします。

奥村春香と申します。“はざま”の中で生きる少年少女がなんとか大人になるためのサポートを行う、「認定NPO法人第3の家族」で代表を務めています。どうぞよろしくお願いします。

「認定NPO法人第3の家族」代表 奥村春香さん
「認定NPO法人第3の家族」代表 奥村春香さん

――ありがとうございます。まず第3の家族の成り立ちについて伺いたいです。

大学で学んだウェブデザインやエンジニアリングの専門知識を生かし、家庭環境に悩む少年少女が集まるオンラインの掲示板「gedokun」を2021年に立ち上げました。それが活動の始まりです。私自身が幼い頃から家族関係について悩みがあり、その問題について自分ができることをずっと探していたんです。コロナ禍で、自宅での作業時間が増えたことにも後押しされました。

――ご自身も家庭環境に悩まれていたんですね。

そうですね。学生時代には、相談窓口へよく通いました。ただ私の場合は、身体的虐待やネグレクトという明確なカテゴリーに該当せず、「大変だね」と声を掛けられるだけの対応が続きました。既存の支援を受けることはほとんどできず、「親御さんの愛情ゆえの態度かも」という言葉を投げかけられたりもして、混乱した時期もありました。私が上手く伝えられていなかったところもあると思いますが…。

――ご自身が、既存の支援のカテゴリーや制度には当てはまらない。第3の家族が言う “はざま”の中にいらっしゃったんですね。ご友人などへは相談されていたのでしょうか。

それが誰にも相談できませんでした。それどころか、家庭環境は全く問題ないふりをしていたんです。休日の過ごし方を聞かれたとき、「うちはここに行ったよ」と場の空気に合わせて嘘をついたことがあるほどです。誰にも自分の状況を話せない悶々とした日々が続いていた大学2年生のとき、弟は自ら命を絶つ選択をしました。

このような私自身の過去から、既存の支援のカテゴリーに当てはまる・当てはまらないにかかわらず、苦悩する少年少女が自分の思いをまずは吐き出せる場が必要だと強く感じました。そこでリリースしたのが、掲示板のgedokunです。既存の支援の枠組みに当てはまらず、誰にも「助けて」を言えない。そんな少年少女のための安心安全なオンラインの居場所になれるようにと思いを込めました。

――自分の思いを気兼ねなく吐き出せる場にするために、どのような点を工夫されましたか?

会員登録が不要で、匿名で投稿ができます。人に知られたくない悩みを他人に知られるリスクや、不特定多数の他者による炎上や誹謗中傷のリスクを下げています。

個別の投稿には、「わかる」と「エール」の絵文字のリアクションが得られる形で設計しました。誰からも反応がないとやはり寂しいですし、励みもありません。「誰かが自分を見てくれている」という安心感が生まれるようにしています。

「gedokun」の投稿画面(画像提供:第3の家族)
「gedokun」の投稿画面(画像提供:第3の家族)

――いまはどのくらいの数のユーザーがいますか?

立ち上げ当時のアクティブユーザーは、月600人ほどでしたが、現在(2025年11月時点)は月7000人ほど。1日500件ほどの投稿があります。ユーザーは中学・高校生が中心ですが、小学生から大学生まで幅広い層が利用しています。

――わずか数年間で、すごい変化!

正直、この状況にはとても驚いています。学生向けのイベントへ登壇したとき、「gedokunを使っていました」と話しかけてくれる子もときどきいるほどです。

新たな居場所を見つけるための情報サイト「nigeruno」

――第3の家族のオンラインサービスといえば、情報サイト「nigeruno」も有名です。こちらは2022年にオープンされましたが、gedokunとはどのように異なるのでしょうか?

nigerunoには、「新たな居場所を見つけるための情報」を掲載しています。私自身が活動を続ける中で、「学生時代に知っていたら、もう少し楽に過ごせたのでは」と思えるいくつもの情報に出会いました。現状をなんとかしていくための有益な情報を少年少女に伝えたいという思いから、サイトをスタートさせました。

――いまはどのような情報を掲載していますか?

家以外での時間の過ごし方や親に気持ちを伝える手段など日常生活での実践から、児童相談所や民間シェルターへのアクセスといった緊急時の対応まで、幅広くカバーしています。児童相談所への相談方法など具体的な手続きの仕方も学べますし、当事者の経験談も見られます。経験者や支援団体へ調査を行い、当事者が求めている情報を並べました。

情報サイト「nigeruno」(画像提供:第3の家族)
情報サイト「nigeruno」(画像提供:第3の家族)

――お金の集め方や、将来の選択に関わるものまで…。本当に多種多様ですね。

少年少女はそれぞれ複雑な状況に置かれています。その状況に応じて必要な情報は異なるので、多様な状況に対応できるよう体系的に情報をアップしています。

――gedokunと連携されたりはしていますか?

はい。gedokunで投稿された内容を分析して、当事者に役立つと思われるnigerunoの情報をおすすめする機能があります。

2. かつての少年少女と共に運営する第3の家族

――第3の家族の運営体制について教えてください。

2023年にNPO法人化するまでは、ほとんど一人で運営をしていました。法人化以降の組織体制は、フルタイムのスタッフが私と事務局担当の2名、業務委託など有給スタッフが数名。登録ボランティアは50名ほどいます。

――そんなにたくさんのボランティアが参加されているとは…。

アクティブに活躍しているのは、20名ほどですかね。gedokunを利用していたかつての少年少女がその中心を担っています。

――若い世代のボランティアメンバーと一緒に企画を進めることもあるのでしょうか。

私がまずは企画を提案して、少年少女と年が近いメンバーにアドバイスをもらいながら進めることが多いですね。例えば、新しい機能を搭載する前とか。若い世代のメンバーの反応は、プロジェクトの方向性や内容を決める際の重要な判断材料です。

ボランティアメンバーとの共同作業の様子(画像提供:第3の家族)
ボランティアメンバーとの共同作業の様子(画像提供:第3の家族)

少年少女と同年代の声を運営に反映しながら進めることを、第3の家族では大切にしています。私はいま26歳で、gedokunの最年少ユーザーは小学校4年生。少年少女との年齢は毎年離れていき、授業内容や流行、社会に求めるものもどんどん変わります。若い世代から価値観や考え方を教えてもらいながら自分自身をアップデートしています。

3. 寄り添わない支援、自分なりの形で再びつながる

――第3の家族は、「寄り添わない支援」という特徴的なコンセプトを掲げていらっしゃいますよね。

第3の家族ではあえて“寄り添わない”態度を第一原則としています。もちろん支援にとって、“寄り添う”態度はとても大切です。ただ大人が高い位置から手を差し伸べ、既存の支援に誘導しすぎるような形にはならないように気を付けています。

――なにか具体的な出来事があったのでしょうか?

一時期、gedokunの投稿の内容を分析して、虐待の可能性が高い少年少女に対して、「虐待の可能性が高いため、児童相談所に通告しませんか?」という長文のメッセージを送っていました。その対応に、ブーイングが起きてしまって…。

――支援者としては、よかれと思って行動してしまいそうですが…。

本当によかれと考えていたんですが…。大人の立場では正解とされる答えに当てはめるような態度が、少年少女には疎ましく感じられたのだと思います。そこからは、「虐待かも…」の文字を投稿の下に小さく添える表示方法へ変更しました。この方法から、支援の場へアクセスしてくれた子もいます。大人にとっての正解とされる既存の支援やサポートの方法を押し付けるのは、あまりよい効果を生まないことに気づきました。

――なるほど…。ただ、既存の支援やサポートにつながった方がよい場合もありますよね。

その通りです。ただ、こちらが既存の支援やサポートを正解として押し付けるような形にならないようにするのがポイントです。例えば、配信などを通じて、私や若いメンバーが少し先輩の立場から、お説教にならない言葉で「やっぱり大人とつながるのも一つの手だよね」と選択肢として伝えるようにしています。

取材の様子

――そうすると、第3の家族としては、「寄り添わない支援」でどのような状態を目指しているのでしょうか。

少年少女を既存の支援へ結びつけること自体をゴールにするのではなく、当事者自身が自分のペースで社会と関わる方法を見つけられるようにサポートできたらいいなと考えています。第3の家族での居場所や関係を通じて、当事者の家族を指す「第1の家族」、地域社会や学校を指す「第2の家族」などと、少年少女が自分なりの形で再びつながれる状態がベストではないかなと。少年少女も、なんとなく第3の家族の外にある社会とつながり直すことを目標にしていたりするんですよね。

児童相談所に自分で電話をして福祉につながる子もいれば、親と上手に対話する術を身につける子、一人暮らしをして実家を離れる子もいます。折り合いの付け方や出口は人それぞれです。

―― 一時的な避難場所のようなイメージですかね?

そうですね。第3の家族は、家族や地域社会へもう一度つながっていくためのセーフティーネット、もしくはステップアップの場に近いですね。

4. 多様な主体と広がる協働

大学、地域、そして企業

――2021年からの活動の中で、いまはどのような方々と連携をされていますか?

いまでは様々な方々との協力が広がっています。なかでも大学との連携は大きな動きの一つですね。

個人名義では、横浜市立大学による共創の場形成支援プログラムの一環である「Minds1020Lab」の研究メンバーとして参加しています。若者のための仮想空間プラットフォームの整備や、若者に対する解像度を高めるための調査を異分野の方々と進めています。

――研究に加わる中で、新たな出会いはありましたか?

そこでは、医療分野に携わる方々と関係性が構築できました。「医療の現場では、手が届きづらい層にリーチしている」と評価していただけて。その声には、とても勇気づけられます。

第3の家族としては、早稲田大学文学学術院教授の石田光規さんと連携をしています。ここではgedokunの投稿をデータとして分析中です。

――大学と連携して得られた科学的な知見やデータの結果は、どのように生かせそうでしょうか。

大学と協力して、科学的知見と実証データに基づく“診断サイト”をつくりたいと考えています。少年少女が自身の家庭環境の現状を、客観的な評価指標で把握できるようにしたいです。インターネットの診断サイトには科学的根拠に基づくものが少ないのが現状です。いずれにせよ意味のある形で、少年少女の手に渡るようにするのが目標です。

――他方で、地域との取組などはありますか。

2024年は、公益財団法人よこはまユース主催の「移動型交流カフェプロジェクト」に参加しましたね。横浜市の地域団体や若者と一緒に、青少年のための一時的な交流の場を市内の様々な場所でオープンしました。これをきっかけに、市内で活動する団体さんと顔見知りになれたのはうれしいです。

「移動型交流カフェプロジェクト」の様子(画像提供:第3の家族)
「移動型交流カフェプロジェクト」の様子(画像提供:第3の家族)

――企業との連携はいかがでしょうか?

企業との上手な連携方法を模索中です。一つ考えているのは、企業でのセミナーや研修への参加の機会を増やすこと。少年少女の保護者世代に、いまの若い世代の現状や価値観、課題を伝えていきたいです。これは企業で働く大人のボランティアを増やすことにもつながりそうです。少年少女の未来について、一緒に考えられるような入り口を生み出してみたいです。

当事者の声を社会に届ける

――ほかに活動の広がりはありますか?

ありがたいことに、国や地方自治体などの行政や、支援に関わる人々が集まるシンポジウムや議論の場にお招きいただく機会が増えました。

――それは素晴らしいです。

そうした議論の場に、当事者と一緒に参加することも最近は行っています。2025年9月に子ども家庭庁が主催した「こどもの居場所づくりオールミーティング」には、gedokunを利用していた子と二人で参加しました。伝えにくい内容を、その子だからこそ言葉にできた場面もありました。本人にとっても、自分の境遇や考えを振り返る時間になったようです。

シンポジウムへ登壇する奥村さん(画像提供:第3の家族)
シンポジウムへ登壇する奥村さん(画像提供:第3の家族)

――最近は議論の場に当事者を交える動きが増えていますよね。

動きは増えていますが、公募にすると参加者はどうしても発言に前向きな人に偏りがちです。私自身は、普段は議論の場に積極的に参加しないような子に声をかけ、多様な視点が議論に入るように心がけていきたいです。

5. 第3の家族のこれから

――これからは、少年少女に対してどのようなサポートが増えていってほしいですか?

あれこれとなにか言える立場ではありませんが、事態が悪化する前に動ける予防に力を入れた支援やサポートがもう少し増えるとよいかなと思います。

――予防とオンラインツールを活用した支援は、相性がよさそうに思えます。

オンラインの支援の場合は住まいにかかわらず多様な少年少女へアプローチできるため、予防的な観点からも相性は悪くなさそうです。ただ、リアルな場を想定した少年少女の支援に比べて、オンラインを活用した支援には資金面のサポートが限られています。第3の家族も、助成金の採択では苦戦が続くことが多いです。

――どのようなオンラインの支援の方法や使い方があると思いますか?

明るいオンラインの居場所はこれからもっと増えてほしいです。第3の家族が運営しているのは、ちょっと暗い居場所です。例えるならば「夜の公園」で、薄暗い気持ちを抱えたままで存在してもよい、そしてそのモヤモヤとした感情を共有できる場です。こうした居場所も大事だと思いますが、他方で若い世代が元気に活躍できるような明るいオンラインの居場所も増えていってほしいですね。

明るくても暗くても居場所づくりで大事になってくるのがユーザーの体験設計。箱だけポンとつくっても、実際に若い世代の参加者は簡単には定着してくれません。若者、行政、民間組織などがお互いに協力し合い、少年少女が「ここに来たい」と感じる場を一緒につくっていく可能性はまだまだありそうです。

互助の輪を深め、「生きたい」と思える社会を創る

――これからはどのようなことに力を入れていきたいですか?

互助の循環をさらに深める仕組みをつくっていきたいです。先ほどお話した通り、第3の家族のサービスを使っていた少年少女が、ボランティアメンバーとして参加してくれています。今後は、当事者とかつての当事者が助け合える互助の輪を広げていけたらと思います。そこではオンラインに加え、オフラインの支援の両方を上手に使っていく予定です。

――オフラインの支援というのは、互助の輪にどのように関わっていくのでしょうか?

これまでは、どうしようもない気持ちをみんなで一緒に消化するオフラインのイベントを、「裏〇〇の日」として実施してきました。母の日、成人式、七夕など、一般的な「ハレの日」に気持ちが重くなる少年少女に向けて、“裏”の居場所をつくっています。

恒例なのは「裏母の日」。多くの場合、子どもが母親に感謝するとされる「母の日」は、少年少女にとってつらい一日になりがちです。2024年は、少年少女から集めた「親から言われた忘れたい言葉」を山の中でお焚き上げをして、その様子を配信しました。

リアルタイムでつらい時間を乗り越えるための取組に関連していえば、8月31日から9月1日にかけて夜通しでライブ配信も行いました。10代の自殺が最も増加する日をみんなで一緒に過ごす時間にしました。

2024年「裏母の日」のお焚き上げ(画像提供:第3の家族)
2024年「裏母の日」のお焚き上げ(画像提供:第3の家族)

――対面の空間を介すると、少年少女の気持ちも少し違ってきそうですね。

結構好評です。ただ単発的なオフラインイベントでは、参加者が限られます。遠方に住んでいる子だったり、外出をなかなかさせてもらえない子もいたり。そのため、これからは自分の身近な地域や学校の中で、同じ境遇で悩む同世代を見つけられる安全な方法を提案できたらいいなと思います。具体的な方法はいまつくっているところですが、同世代との何気ないちょっとしたやりとりだけで救われて大人になっていけるので。

――やはりリアルな場所やつながりへの関心は高いのでしょうか?

少年少女に必要なサポートについて聞くと、リアルな居場所や人間関係についての話が必ず上がります。同世代の子とリアルの空間で話せる場所が欲しいとか、夜に立ち寄れる場所が欲しいとか。ただ実際に開設されている公的な居場所を提案すると、「それは違う」という表情をしていて。

この点に関しては、まだつかみかねているんですが…。少年少女が求めているのは、明確な制度や支援策から生まれたリアルな場を指すのではなく、同じ思いを持つような人たちとゆるやかにつながり合える、もう少し柔軟な形のように思います。この辺りに関しては、今後さらに考えていきたいです。

――いまの若者の核心に迫る部分だと思います。では、最後に奥村さんが描く大きなビジョンを教えてください。

少年少女が生きたいと思える社会を創ることです。いまは「大人になる前に死にたい」という声によく出会います。「生きてみたい」と思える瞬間が少年少女の中に少しでも多く生まれるように、少年少女と共に歩みを進めていきます。

――少年少女の声に真摯に向き合う、第3の家族の活動をこれからも応援しています。本日はありがとうございました。

取材に参加したメンバーで記念撮影
取材に参加したメンバーで記念撮影

今後も横浜市市民協働推進センターでは、市内各地のさまざまな協働のたねを紹介してまいります。

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