
中学生の不登校当事者たちが「自分たちで、不登校の子どもたちのための居場所をつくりたい」と思案し、立ち上がって3年目を迎えました。そのプロジェクト名は、「リスポーン」。現在の活動内容は、学校に行きづらい子や家族を対象とした対面イベント「つながる」の開催、ITプラットフォーム「Discord」を使ったオンラインの場づくり、フリースクールや通信制高校の情報整理と発信など。「つながる」は、運営者も参加者もすべて子どもたちで、横浜青年館M-baseを会場に、カードゲームやオンラインゲーム、軽い運動などで交流しています。
今回は、当事者としてその中学生の居場所づくりのプロジェクトを立ち上げた山本滉さん、立ち上げ当初から携わる阿部泰樹さんに話を聞きました。
学校に行きづらい子どもたちの居場所を自分でつくりたい!
2024年1月、主に中学生を対象とした子どもの居場所づくりを行うために「リスポーン」は誕生しました。この団体名の発案者は、現在は高校2年生の山本さん。中学3年生の時に「学校に行きづらいという悩みを抱える子を、同じく不登校経験がある自分たちが支えたい」と、仲間と共に活動を開始しました。


リスポーンを運営する山本さんと阿部さんは、泉区にある「一般社団法人かけはし」が運営するフリースクールに通い始めたことがきっかけで出会いました。山本さんは不登校だった時の状況を次のように振り返ります。「学校という社会から外れ、同世代と話す機会がなくなりました。行き場がなくて、自分がこの先どうなってしまうのか怖かった。絶望していました」。かけはしに通いはじめ、似た境遇の仲間と出会ったことで、皆同じように悩んでいることを知った山本さんは、そのコミュニティの中で気持ちが落ち着いていき、少しずつ回復したそうです。「コミュニティの大切さに気付きました。自分はかけはしに居場所ができましたが、居場所がなくてつらい人はまだまだたくさんいる。今度は自分たちが不登校で悩んでいる子を支えたい、痛みがわかるからこそ居場所をつくれるはずだと思いました」。山本さんの言葉に力がこもります。
山本さんがかけはしに通い始めてからおよそ半年が経った頃、山本さんは、かけはし代表の廣瀬貴樹さんに「学校に行きづらい子の居場所を自分たちでつくりたい」とその思いを打ち明けます。「苦しんでいる誰かの力になりたいっていう気持ちは、本当にすごいこと。なんでも協力したい」と、廣瀬さんの涙ながらのエールに背中を押され、山本さんは阿部さんを誘い、数名の仲間と共に活動を始めました。
さまざまな大人や当事者との協働が活動を広げた
2023年6月、廣瀬さんが横浜市市民協働推進センター(以下、センター)の「市民協働相談会」に登壇。二人は市民協働相談会のアフタートークに参加し、子どもたちの居場所支援をしている多くの大人と出会いました。この場で出会った人々から「たくさんのやりたいことや理想、課題を整理し吟味してはどうか」というアドバイスを受け、彼らは自分たちでプロジェクトの提案書を作成。「子どもたちが主体となって居場所をつくる」「不登校の保護者の会で、当事者として保護者に向けて講演する」「学校の先生に不登校の子どもの声を届ける」など、活動の方向性や内容の整理を進めていきました。

2024年1月にリスポーンという団体名が決まってからは、センターが運営する「協働ラボ」を会場に、仲間同士の交流を深めたりイベント開催に向けて準備したりと活動が活発になっていきました。11月には不登校のお子さんをもつ保護者の会に山本さんがオンラインで参加し、当事者として話をする機会を得ました。
その後、4月に二人は通信制高校に入学し、活動が本格化します。
8月にはインスタグラムアカウントの公開、10月には、学校に行きづらい子や家族を対象に、対面で実施するイベント「つながる」を開催しました。
一方で、徐々に活動が活発になることで新たな悩みも生まれました。「リスポーンが団体として信用されるためにはどうしたらいいのか」「たくさんの困っている人にイベント情報を届けたいが、どのように広報をしたらいいのか」。こういった悩みをセンターへ共有したことがきっかけで、2024年12月にミズベサロン(センターが主催する、市民や学生団体、NPO、企業などが集まって特定のテーマについて話し合う交流イベント)が開催されました。
ミズベサロンでは、「起立性調節障害」「スポーツ×社会貢献×若者」をテーマに中高生が運営する2団体と共に、団体設立の背景や取組を発信し、同世代の参加者から多くの共感を得ました。他のフリースクールの代表や行政関係者など大人の出席もあり、立場や年齢を超えた意見交換が行われました。

「不登校支援には、居場所づくりやフリースクールの紹介、SNSを活用したオンラインコミュニティの形成など、さまざまなアプローチがあります。リスポーンとしてはどのような働きかけを行うべきか、どんな意味を持って活動するのか――活動を通してさまざまな大人や当事者の子どもと出会い、深い学びを得ています」と、山本さんは話してくれました。
通信制高校の情報発信に力を入れ、進路に悩む中学生を後押し

2025年に入り、リスポーンの活動はさらに広がっています。新たな取組が、動画を使った情報発信です。山本さんと阿部さんが通信制高校を選んだ経験を生かし、中学生に向けて「通信制高校選びのポイント」を伝えるTikTok動画を現在制作しています。

「子どもたち自身が見やすいように、馴染みのあるTikTokで配信するのがいいのでは」――そんなメンバーのアイデアから発信が始まり、通信制高校のメリットデメリット、学校選びのポイント、通信制高校ならではの「あるある」など、まずは「通信制高校がどんなところか」「学校ごとの違いは何か」をわかりやすく伝えています。コンテンツが充実してきたら、さらに学校紹介にも力を入れ、見た人がよりリアルに高校生活を感じられるようにしていく予定です。
「高校選びに悩み、私たちは2人合わせて約30校を訪ねました。たくさんあって選びにくい通信制高校について自分たちの経験をもとに紹介して選びやすくすれば、進路選びに悩む中学生の負担が減り、助けになるのではないか。高校が決まることは不登校の子にとって大きな安心につながるはずです」と山本さんはその意義を話します。
また、対面のイベント「つながる」は2025年9月で5回目の開催を迎えました。「参加している子が楽しかったと感じること」を成功とし、その場の子どもたちの様子や声を尊重して、予定にはなかったドッチボールを急遽行う回もあったとか。「明日も来たい」という声を聞き、山本さんと阿部さんは手ごたえを感じています。
さらに、2025年10月、リスポーンはかけはしの活動報告イベントに卒業生として参加し、講演を行いました。会場には学校関係者や行政関係者、かけはしの支援者が集まり、山本さんと阿部さんは活動への思いや取組の内容、そして今後の展望を発表しました。12月には横浜市教育委員会 教育総合相談センター主催の「保護者の集い」と、泉区こども家庭支援課主催の「不登校・ひきこもり事業者活動支援事業講演会」に登壇しています。講演会の会場では新たに開設した公式LINEへの登録を呼びかけ、「不登校の本人や保護者に加えて、学校の先生が生徒のことを相談していただいても構いません。どんな相談にも応えていきたいです」と話しました。


リスポーンでは組織体制の整備にも力を入れてきました。現在、理事が5名、会員15名ほどで活動をしていますが、「企画側の立場であっても参加は自由」という姿勢を大切にしています。忙しくなったり、自分のやりたいことができたりして活動に来られなくなっても大丈夫。気を張らずに、来たいときに来てほしい、という思いが込められています。
不登校は悪いことではない、希望を伝えたい
なぜリスポーンはここまで意欲的に活動ができるのでしょうか。彼らの原動力を聞いてみました。
「私の行動の原動力は、目の前の悩んでいる子どもの顔です」と山本さん。
「私がかけはしに通って回復してきたころ、学校ジャージを着た中学生がうつむいたまま、力なく歩いているのを見ました。その光景を見た瞬間に『この人は去年の自分と一緒だ』と、その頃のつらさを一気に思い出しました。そして、今の自分はフリースクールに通い、友達がいて幸せを感じていることを強烈に意識し、誰もが幸せを感じられる環境に身を置いて欲しいと心から思いました。急に自分の内側から外側に目が向くようになり、自分以外の人の不登校の経験を聞きたいと思うようになりました。聞けば聞くほど『そういうつらさもあるな、聞けてよかったな』と感じ、その人にとってどんな居場所なら楽しめるのかを考えるようになりました」
山本さんは、活動のことを考え続け、常に熱量があります。そんな山本さんの思いは周囲の大人や不登校経験がある子どもたちを巻き込み続けています。
共に活動する阿部さんは「自分と似たような境遇の人と話して、不登校は悪いこととは思わなくなりました。不登校の人たちに、リスポーンの活動を通して少しでもいい状態になってほしいと思っています。今後こうなりたいという明確な目標はありませんが、できるだけ活動を続け、つらい気持ちで過ごしている人たちを救いたいと漠然と思っています」と自然体で語りました。
「2030年に新学習指導要領が改定されて学校のあり方が変わるかもしれない。でも、どんなに良く変わったとしても、学校に行けない人、疎外感を感じる人はいるはずです。私は、その時代やその人に合ったアプローチをしていきたい。そして、リスポーンは不登校を経験して痛みを感じている人が『やりたいこと』を伝えてくれた時に、その希望をかなえられるような団体でありたい。そのためにももっといろんな人と関わって、さまざまな人の居場所になれる団体をつくっていきたいです」と山本さんは力強く結んでくれました。
編集後記
リスポーンはさまざまな活動の種の中から、自分たちの思いに沿ったアイデアを選び育て、意欲高く行動しています。彼らの「ふるさと」でもあるかけはしの廣瀬さんを始めとする周りの大人たちは、彼らの良き相談相手になり、よりよいアイデアを一緒に創り出し、リスポーンの意思を最大限に尊重しながらサポートするという伴走を通して、彼らを応援しています。
リスポーンの活動を知った人が「私も何かができるかも」と勇気をもらい、情熱を燃やして立ち上がるかもしれません。そういった情熱がそこここで燃え上がり、つながり、市民活動がまちをよくしていく。そんな横浜の協働の姿が、未来に続いていくことを願います。
今後も横浜市市民協働推進センターでは、市内各地のさまざまな協働のたねを紹介してまいります。