取組紹介

【協働事例】困ったときの助け合いが根づいた社会を目指して:地域の多様な力をつなぐ「自助カナ」

自助カナ みんなの街の炊き出し訓練の様子

「顔見知り、顔なじみ」。災害時のための「特別な準備」ではなく「日常生活でのつながり」が大切という思いから金沢区自助連絡協議会(通称:自助カナ)が合言葉として掲げているのがこの言葉です。
同じ地域に住むさまざまなライフステージの生活者が、困った時に「助けて」とお互いに言える社会をつくるため、自助カナは防災や地域に関わる多彩な活動に取り組んでいます。

2024年から活動を開始した自助カナのこれまでの歩みと、これから目指していくものについてお伺いしました。

偶然の出会いがつないだ自助カナのはじまり

金沢区自助連絡協議会(以下:自助カナ)は、安心して暮らせる地域社会づくりを目標とした、人とのつながりを深める横浜市金沢区のネットワークです。自助とは、災害が発生した時、自分や家族の命・財産を自分で守ること。食糧の備蓄やハザードマップの確認、事前避難などが挙げられます。自助カナは「助けて」と言える関係性づくりを自助の一歩目と捉え、防災活動を一つの大きなテーマに据えながら、福祉、文化、シルバー世代・子ども向けワークショップなど多彩な活動を実施し、市民一人ひとりが「顔見知り」「顔なじみ」を広げていく活動を行なっています。

設立2年足らずで多岐にわたる活動に取り組む自助カナはどのようにして始まったのでしょうか。
キーパーソンとなるお二方をご紹介します。

代表の穴澤里美さん(左)とアドバイザーの小林英生さん(右)
代表の穴澤里美さん(左)とアドバイザーの小林英生さん(右)

1人目は自助カナの代表を務める、穴澤里美さん。子育て中に東日本大震災を福島で経験し、その後夫の転勤で金沢区に引っ越してきました。子どもたちが転校・転園先で原発事故の風評被害を受けることがないよう、保護者の方たちや地域との関わりを深めることを意識していたそうです。

「昔から防災の活動に興味があったわけではありません。大震災を経験し、引っ越し後に末っ子の発達に障害があることがわかりました。いろいろなことがクロスして、自助カナにつながっていきました」と、横浜に越してきた当時を振り返ります。お子さんの子育てを通して、発達障害の子どもの居場所や将来の生活に不安を持っている保護者が、自分の他にもいるのではと思ったそうです。そしてそういった子どもたちのための居場所となるひろばを立ち上げたのが、自助カナの原点となりました。

穴澤さんがひろばの活動を開始した頃、同じ金沢区で「横浜こどもホスピスうみとそらのおうち」の立ち上げに関わった方が近所にいることを穴澤さんは偶然耳にしました。地域で活動を広げていくためのヒントを求めて穴澤さんが声をかけたのが、キーパーソン2人目の小林英生さんです。

以前から防災活動に関心を寄せていた小林さんは、関東大震災から100年を迎えた2023年という節目に、金沢区の新たな防災の仕組みづくりを模索し始めました。そして仕組みづくりのパートナーとして、当時連絡を取り合っていた穴澤さんに、小林さんの方から話をもちかけます。

「防災というジャンルは、男性が中心になりがちなんですよ。しかも年齢層の高い人たちの常識だけで考えられていることが多くて。その方たちが積み重ねてきた実績は大切にしていきたいけど、このままではいつまで経っても子どもや女性の声は拾われないと思っていたんですよね。そこで自助カナの代表を考えたときに、子どもに関わる生活者視点、女性視点を持っている穴澤さんを推薦しました」と小林さんは話します。

「自分が専門家でもなく、ただのお母さんであることがポイントではないでしょうか。私自身が助けて、と言える関係をつくっておくことで、いざという時に、そのつながりが周りの人の支えになればいいなと思っています」と穴澤さんも続きます。

近所でそれぞれに活動していた、志の近い二人の歩みを経て、2024年6月に自助カナが発足しました。「自助カナ」の呼び名は、小林さんがパーソナリティを担当する金沢シーサイドFMの防災チャンネル名に由来します。

やりたいことに共感した人が集まる運営

ミーティングの様子
ミーティングの様子

自助カナは参加するメンバーがそれぞれの意欲に応じて関わり方を自由に選べる任意団体です。そのため、会員制を取らずにそれぞれの得意分野ややりたいことを軸として、企画ごとに単発で人が集まります。イベントごとに実行委員を決め、その委員が中心メンバーとして活動します。イベントが終了するとメンバーはいったん解散。やりたい企画がまずあって、そこにメンバーを集めてイベントを実行するというプロセスで活動が続いていきます。

企画イベント終了でメンバーは解散するものの、関係性が切れてしまうわけではありません。自助カナのLINEグループがあり、現在50人以上のメンバーが入っています。金沢区在住の方だけでなく、防災士や行政書士、消防や保険業界の方、選挙管理委員など、30〜50代の多種多様な方たちが集まっています。さらに、週1回の定例Webミーティングには、毎回20名ほどの参加があり、今動いているプロジェクトやその進捗を確認しています。一人ひとりが関わり方にグラデーションをつけながらつながり、型にはまらず自由に活動できるのが自助カナらしさです。

「そもそも顔見知り、顔なじみになるために声をかけているので、ルールは特別には設けていません。ただ、ルールがないからこそ、無関心でいないことが大切です」と穴澤さん。「たとえばイベントの出欠確認の際には、参加ができなくても期日が過ぎても、何かしらの反応があるときっと互いによいですよね」と続けました。

挑戦を重ねるごとに広がる協働の輪

自助カナの多岐にわたる活動の中でも、企業や団体、地域がつながる取組について「ターニングポイントになった」と小林さんが語るのは、2024年12月に行った「みんなの街の炊き出し訓練」です。地域防災拠点と店舗が協力することで、災害時に食料などの災害物資が住民に提供される仕組みづくりを目的とした訓練です。

自助カナは運営・広報を担当し、地域防災拠点運営委員会と、金沢区並木にある大型スーパーマーケット・ビアレヨコハマをつなぎました。「災害などが起きたとき、廃棄されてしまう生鮮食品を必要な人に届けたい」というビアレヨコハマ代表の方の願いを、自助カナが体制として整え、形にしたのです。

この取組はメディアの取材のほか行政の視察も入り、自助カナと行政の関係性がより深まるきっかけになったと話します。さらに、「他の地域でもぜひ実施してほしい」と声もかかり、ここでの実績が自助カナの新しい営業ツールにもなりました。

「みんなの街の炊き出し訓練」の様子
当日は温かい豚汁が振る舞われました

そして自助カナは防災というテーマ以外でも協働の輪を広げています。

2025年夏に始まった「地域循環油プロジェクト」は、地域の食堂や個人事業主の方から寄付された使用済み食用油を、資源として循環させる取組です。開始のきっかけは、別の地域ですでにこの活動に取り組んでいた方が、「金沢区でもやりたい」と自助カナと連携を申し出たことだったといいます。このプロジェクトでは、トヨタモビリティ神奈川(神奈川トヨタ自動車株式会社)が廃食油を集める場所を提供しています。

地域廃食油でキャンドルをつくるワークショップの様子
地域循環油プロジェクトに取り組む様子。回収した廃食油でキャンドルをつくるワークショップ

このように自助カナがさまざまな属性の方とのつながりを、取組を重ねるごとに広げられるのはなぜなのでしょうか?

そのヒントは、「自分が楽しそうだと思ったら、行ってみる!」と話す穴澤さんの自発的な行動力の中にあります。
トヨタモビリティ神奈川との協働のきっかけは、穴澤さんの声がけでした。以前穴澤さんが足を運んだ防災イベントにトヨタモビリティ神奈川が給電や車内泊の取組で参加していて、「私たちも同じことをやってみたい」と担当の方にお声がけをしたのだそう。地域循環油プロジェクトの協働も、そこで培われた縁が生きる形となりました。
自分たち以外の活動者とのつながりを広げていくことが、自助カナの活動を続けるために大切だと穴澤さんは考えます。

自助カナ総会の様子
地域で活動している方を招き取組を共有する場として、年2回開かれる自助カナの総会
2025年6月の総会には約100人が集まりました

日常生活の延長線上に安心できる地域をつくる

自助カナの今後を話す穴澤さん
自助カナの今後を話す穴澤さん

最後に、自助カナの抱える課題と、今後の展望について尋ねました。

「やりたいけど一歩踏み出せない人たちが気軽に参加してもらえるような団体になるにはどうしていったらいいか、という点が課題ですね」と穴澤さんは話します。

イベントを入り口にして興味を持ってもらい、自助カナに入ってもらうという流れをつくりたいと考えています。そのためにも、障害のある子どもや、幼い子どもを連れた家族も参加しやすいイベントの発信をしていくことを、解決への第一歩に据えています。

また、現在は募金や協賛、参加費を募ってイベントを開催してきましたが、企画によっては赤字となることも。「まずは信頼を得て、みんなに知ってもらうことを優先にしていたので、真剣に取り組んでこなかった資金調達のこともこれから考えていきたい」と小林さんは話します。

そして自助カナの展望は、全国にこの仕組みを広げることです。
まずは地域という単位で小さなつながりの輪をつくり、次に地域の輪と輪が合わさって大きな輪になる。隣の区や市と連携し、つながりの輪の直径を広げるように大きくなっていく。そのプロセスを繰り返すうちに、全国規模の大きなつながりの輪になっている、という在り方を自助カナは目指しています。「磯子区や逗子市など、近隣地域で自助カナと同じような取組を立ち上げたいという声があり支援を行なっています。自助カナのような関係性がさまざまな場所で広がっていけば――」と小林さんは未来のビジョンを語ってくれました。

編集後記

自助カナの自由度の高い運営は、穴澤さんと小林さんそれぞれの力がバランスよく響きあうことによって成り立っていました。

一つひとつの出会いを大切に、偶然を必然に変えて、人や企業とつながりをつくる。先を見据えながら段階的にやりたいことを地域の中で形にしていく。このような丁寧な積み重ねこそが、自助カナの個性であり、強みだと感じました。

地域やご近所との関係が薄れがちな今の時代だからこそ、人とのつながりを日常の中で意識し、行動に移すことが「自助・共助」においてますます重要になりそうです。そして大人たちが立場を越えて声を掛け合う姿を子どもたちに見せることが、助け合いの風土を未来に根付かせていくことにつながるのでしょう。

「顔見知り、顔なじみ」から始まった協働の輪に、自助カナがどんな広がりを見せてくれるのか、これからの歩みに注目です。

今後も横浜市市民協働推進センターでは、市内各地のさまざまな協働事例を紹介してまいります。

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