
大学生と社会人が対話しながら、共に学ぶワークショップの場“職欲(ジョブヨク)”をご存知ですか?10年以上にわたり、“ジョブヨク”を継続してきた一般社団法人SoLaBoの工藤紘生(くどう・こうせい)さんに、活動の内容やきっかけ、協働のコツや価値についてお話を伺いました。
大学生と社会人がフラットに対話できる場「ジョブヨク」とは?
ジョブヨクは、ワールドカフェ形式を取り入れて独自に発展したワークショップの場です。大学生が「働き方(キャリアデザイン)」や「生き方(ライフデザイン)」について、大人たちとフラットな関係で対話をすることで、自らを考え、生き方と向き合うきっかけを作っています。
企画するのは、大学生たち。会場も大学で行うことを基本としています。
企画担当者は、1名の場合もあれば、4〜5名ほどのチームで構成されることもあります。「こんな人と働きたい」、「ワークライフバランスを考える」「ITのこれから」といったテーマを設定して、最大3時間半程で、席替えしながら多くの人と話ができるよう、プログラムを組み立てます。告知、集客、当日の会場の設営準備、受付、ワークショップのファシリテーションも全部学生たちでやること、また、ワークショップ後に交流会を必ず行うのが大きな特徴です。

参加する社会人は、企業人、公務員、クリエーターなど様々な職種の方です。
フラットな場が自然と生まれるように、社会人には「スーツを着てこないこと」というドレスコードがあり、「上から目線で喋らない」等グランドルールが設けられています。一方的に喋りすぎたらイエローカードやレッドカードが出るというゲーム性を持たせる工夫もしています。また、初めての学生が参加しやすいように、リピーターや先輩が初参加の人をサポートするカルチャーが根付いており、参加する学生のうち、1、2年生は交流会での飲食費が無料、3、4年生は2,000円ほど、社会人は7,000円ほど(一例)と立場や学年に応じて、支払額に差をつける方式も採用しています。
異世代、異業種を束ねるミックスプロデューサーの役割

工藤さんは、「黒子」役として、学生たちの企画に伴走し、当日はオブザーバーとして参加して場を見守っています。名刺には「ミックスプロデューサー」とあり、ミキサーの絵が描かれています。
「異世代、異業種、いろんな人をミキサーで混ぜ合わせて美味しいジュースをつくる。美味しくならなかったら作り直せばいいんです」
工藤さんは、2026年現在74歳とのことですが、とにかくお元気で快活。年齢を全く感じさせません。学生たちからの信頼も厚く、「織田信長みたいなカリスマ性のある人!」と工藤さんを例える声もあります。
「SoLaBoのメイン事業が、ジョブヨクです。仕事が重なりやむをえず欠席した一回と、自らが新型コロナウイルス感染のために、自宅からオンライン参加した一回以外は全て参加して、その場を共にしてきました」と話す工藤さん。何よりもご自身が、この活動を心から楽しんでいることが伝わってきました。
大学も職種もバラバラで、多様な属性がミックスされるジョブヨクならではの楽しさが伝播するのか、2013年にはじまり、2025年までの13年間で、300回以上開催。延べ約1万1,000人もの人が参加してきたそうです。
協働の作法を学ぶ、地方行脚の10年間
工藤さんは新卒で広告代理店に就職したのち、 1991年、39歳で会社員として働くことに区切りをつけて独立します。その後、イベントプロデューサーとして1993年頃から鳥取県、徳島県、福井県、熊本県と約10年間地方行脚する中で、SoLaBoの活動に通ずる「協働の作法」が身についていきます。
特に一番はじめに赴任した鳥取県では、初めての地方博覧会開催のために県や市の職員、企業、メディアなど様々なメンバーが実行委員会として集まったものの、どうしたら良いのか誰もわからない状態だったとか。工藤さんには、イベントの企画、広報、プロデュースの経験はありつつも、初めて会う人たちと関係性をつくるところからすべてを手探りで進めていきました。試行錯誤しながら、肌感覚で、「協働のしくみ」を勉強していく日々だったと言います。
イベントは無事に成功。しかし工藤さんの心の中には一つの思いが芽生えます。
――イベントは、打ち上げ花火で終わってしまうと意味がない。僕らは火をつけにいく役で、その後、その地域にいる方たちが何をするかが大事。だから、その地域の人たちの意識や態度を変化させるような働きかけが一番重要になる。人づくりからはじめないとまちは良くならない。
多様な人々とコミュニケーションすることに慣れていた工藤さんでしたが、様々な地域の中に入っていって、異業種、異世代の人と対話、交流していく中では、十人十色の意見が出てきて、多くの困難に直面してきました。「大変なことは必ず起こるもので、むしろそれを経ないとうまくいかないことがわかりました」と工藤さんは当時を振り返って言葉をつむぎます。
「共に汗を流すことが良い結果につながる」という、協働の醍醐味とも言える信念が、地方での体当たりの経験を通して、形成されていきました。

大学院へ進学、仕事や勉学の間の「余白」を知る
2003年に東京に戻ってきた工藤さんは、地方の行政との仕事経験を買われて、新宿区や千代田区の安心安全のまちづくりに関わり、人間関係がまた広がります。その後渋谷区との協働事業でNPO法人シブヤ大学を立ち上げたことをきっかけに、NPOやNGOについて、また、ワークショップやソーシャルデザインを学ぶため、2007年に立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科の門をくぐりました。当時、工藤さんは55歳。5つ年下の教授から直に教えを受け、「授業の後は必ず飲み会。そこで、教授や仲間と、取り留めのないことを含めて、たくさん話をしたことが一番の学びだった」と振り返ります。
2009年に修士を取ったのちには、立教大学の文学部で広告文芸論の授業を3年間受け持つ機会が巡ってきます。自身の講義後も学生たちとの懇親会は欠かさなかったそうです。
学生と「共にいる」ことの大切さ、人と人の関係は、仕事や勉学の間の「余白」でつくられること。ジョブヨクで、交流会を必ず行うスタイルは、ここで確立されていきました。

大学生と大人をつなぐコミュニティをつくろう
大学で学生とのつながりが広がったある日、大学生の自殺率の高さを知って、工藤さんは驚きます。平成24 年版「自殺対策白書」(内閣府公表) によると、大学生の自殺者数は1029名。その中でも就活の失敗で自殺する大学生が200名を超えているといわれていました。周りの学生たちに話を聞いてみると、学生の多くが、「相談できる大人がいない」という状況に直面していることが見えてきました。
「人生も仕事も希望通りにはいかないけれども、人に学び、人と力を合わせれば、なんとかなる」という成功体験を重ねてきた工藤さん。「何かできることはないか」という思いから、異世代、異業種の人材育成の場をつくる目的で一般社団法人SoLaBoを2012年に設立。そのプロジェクトの一環として、2013年にジョブヨクは始まりました。
「職欲」と書いて、「ジョブヨク」。工藤さんは、現行の就活のシステムとは違う、フラットな、コミュニティ重視の場をつくろうと企画を進めていきました。知り合いの学生と社会人に声をかけることから始めて、当初の開催頻度は月一回程度。参加者の満足度は高く、口コミで活動が広がって、月に2~3回、開催場所も関東圏にとどまらず全国から海外へと広がっていきました。 2025年で活動13年目を迎えたジョブヨクですが、今ではいくつかの大学で活動が定着してサークルが立ち上がったり、学内でチームが発足してワークショップが継続的に実施されたりしています。最近では、初期の頃に関わっていた学生たちが社会人の参加者として戻ってきたりと、より豊かなコミュニティが育まれています。

学生発の「ジョブリク」の育成と、地域の居場所づくりに挑戦中
現在SoLaBoが新たに取り組んでいるのが、「ジョブヨク」×「リクルート」略して「ジョブリク」という企画です。これを考えたのは学生たちだそうで、コミュニティ重視のジョブヨクよりもさらに採用面に一歩踏み込み、就活のミスマッチを防ぐことに特化したプログラムとなっています。ジョブリクは、主に、中小企業の社長と学生が直に話せる場です。20人前後の学生たちが参加し、互いに距離が近い環境で話し合える機会は貴重で、学生の就活、企業の求人と双方にメリットがあります。
コロナ禍で企業からの協賛金が大きく減ったことから、資金面の課題に直面したジョブヨク。2023年にクラウドファンディングにも挑戦して目標金額を達成していますが、現在は「ジョブリク」を資金調達の新しい柱として育てています。起業指向の学生にとっては、ジョブリクの運営がそのままビジネススキルを鍛える場にもなっています。現在3名の学生と工藤さんが一緒に企業への営業の電話をかけているそうです。「久しぶりに営業しています。80歳になるまでは頑張りたい」と工藤さんは笑います。
横浜市戸塚区に終のすみかを構え、近年、地域に根差した新しい活動をはじめている工藤さんは、旭区の「希望が丘チャレンジベース」の立ち上げに関わり、企業や学生、NPOと協働して、現在「ヨコハマ市民まち普請」(まちの魅力を高める施設の整備補助への助成金)にも挑戦中。2026年1月25日に実施された2次コンテスト合格まで歩を進めました。ここでも、「黒子」そして「ミックスプロデューサー」として、当事者ではないからこそできることに力を注いでいます。関心を持った方は、ぜひ、チェックしてみてはいかがでしょうか。
編集後記
近年、会社でのイベントに無関心だったり、PTAや自治会などの地域コミュニティに参加しない人が増えている傾向がある中で、ジョブヨクを通じて、リアルな、ごちゃまぜのコミュニティの楽しさに目覚め、救われた経験を持つ若い人が一定数いることを知り、明るくあたたかな気持ちになりました。
上から目線でなく、地域に降りていき、現場で一緒に楽しみながら汗をながす「プロデューサー」という役割は各地で求められているように思います。ジョブヨクで様々なことを学んだ方々が、それぞれのやり方で今度は地域に降りていく、そんな未来を期待しています。
「ジョブリク」ホームページ(外部リンク)
※一般社団法人SoLaBoとジョブリクのホームページは現在改修中
今後も横浜市市民協働推進センターでは、市内各地のさまざまな協働事例を紹介してまいります。