取組紹介

【協働事例】子どもが健やかに育つまちを耕す、soilの居場所ネットワーク(旭区)

協働事例 子どもが健やかに育つまちを耕す、soilの居場所ネットワークバナー

はじめに

秋晴れの陽ざしが心地よい2025年10月14日の正午。横浜市市民協働推進センター(以下、センター)は、横浜市旭区南希望が丘にある一軒家のカフェを訪れました。ここは「NPO法人ハートフル・ポート」が運営するコミュニティカフェ兼スペースで、団体の活動拠点にもなっています。高齢者から子育て世帯まで、幅広い世代が談笑する温かい雰囲気に包まれていました。

にぎわうカフェの隣室では、とある会議が進行中。それは、「soil 子どもの居場所ネットワーク」(以下、soil)の定例ミーティングです。soilはハートフル・ポートが中心となり2023年に立ち上げたネットワークで、南希望が丘近辺で子どもの居場所づくりに取り組む複数の団体が参加しています。ゆるやかに連携しながら、子どもが安心して自由に過ごせる場を地域に広げているのです。 

soilのミーティングの様子
soilのミーティングの様子

今回、センターはこのミーティングへ参加し、各団体の活動や現在の展開などについてsoilのメンバーからお話を伺いました。全国的にも珍しい子どもの居場所を通じたネットワークから、地域団体の協働が生み出す可能性を探っていきましょう。

※本記事は、2025年10月時点の情報に基づいて構成されています

「soil 子どもの居場所ネットワーク」ってどんなもの?

soilは、南希望が丘を中心に、子どもの居場所づくりを進める団体を結ぶネットワークです。2023年に活動を開始し、現在(2025年)は3年目。毎月第2火曜日に定例ミーティングを開き、活動報告や地域情報、最近の悩み、子どもの近況などを話し合います。

誕生のきっかけはコロナ禍での学校閉鎖。子どもは家で過ごす日々が続き、友人や地域との交流が制限される事態へ。この状況に危機感を持ったハートフル・ポートは、南希望が丘地域ケアプラザやスクールソーシャルワーカーと話し合いを重ね、近隣の学校へヒアリングを実施しました。そこでは、校長先生からこんなお願いが。

――子どもがのびのびと過ごせる場を地域につくってほしい

教育現場の切実な声に応えるため、ハートフル・ポートは2022年に団体をNPO法人化し、子どものために拠点の一室を開放。さらにほかの地域団体にも参加を呼びかけ、2023年からsoilを始動させました。日本財団から3年間の助成金を得て、地域のあちこちにある居場所の横のつながりを強化していきます。その結果、現在は8つの団体がメンバーとしてsoilに加わっています【注】。以下に、団体の概要とsoilでの主な活動をまとめます。

NPO法人ハートフル・ポート
ハートフルポートロゴ
南希望が丘でコミュニティ事業を展開。soilでは火・水曜日14〜17時に、子どもへ一室を開放。料理教室や「ICTラボ」、中学・高校生向けの居場所など、子どもの主体性を重視した企画を実施。
一般社団法人かけはし

かけはしロゴ
子どもが自分らしく生きるためのサポートを行う一般社団法人。横浜市希望が丘地区センターや南希望が丘地域ケアプラザなどで、学校に行けない・行かない子どものためのフリースクール型の居場所を運営。
心結(ここゆい)
心結ロゴ
不登校の子どもと保護者に寄り添う地域団体。当事者とその家族が気軽に立ち寄れる空間を開いている。
ブルーベル
ブルーベルロゴ
地域の孤立を防ぐコミュニティスペース。月1回のゴミ拾いを通じて、子どもが多世代や自然と出会う場をつくる。
株式会社エデュカル
エディカルロゴ
学ぶ・遊ぶ・憩うをテーマにした瀬谷区阿久和東の地域資源的な施設。学習意欲を楽しく向上させるイベントが豊富。
ホープガーデン
ホープガーデンロゴ
毎月第1木曜日に、小・中学生を対象に自宅の一室を開放。読み聞かせ、外遊び、工作など、異なる遊びを用意。
KIBOKKO
KIBOKKOロゴ
希望が丘町内会の子ども会の休会をきっかけに発足した有志団体。小学生から高校生までを対象に、毎月第2土曜日に希望が丘ふれあいの森公園で外遊びを行う。
まめちゃんち
まめちゃんちロゴ
ハートフル・ポートのスタッフが、自宅を活用して不定期に子どものためのスペースをオープン。落ち着いた雰囲気の中で、ゆっくりと過ごせる居場所。
※2024年時点の情報に基づく(画像提供:soil公式ウェブサイト)

soilの公式ウェブサイトでは、メンバーの活動状況をカレンダーで公開しています。注目したい特徴の一つ目は、その活動の頻度です。各団体のスケジュールを合わせると、月に20〜30回、地域のどこかで必ず居場所が開かれています。二つ目は、その活動の多彩さです。フリースクール型から外遊びまで種類は多岐にわたり、規模や時間もさまざまです。

soil 2025年10月のカレンダー
2025年10月のカレンダー(画像提供:soil公式ウェブサイト)
soilに参加する団体の活動位置を示したマップ
soilに参加する団体の活動位置を示したマップ ※2024年4月時点の情報に基づく
(画像提供:soil公式ウェブサイト)

これはまさに、soilという名前が示す豊かな土壌のイメージを体現しています。豊かな土には無数の微生物や菌が生き、そこから多様な生命が健やかに育ちます。soilが目指すのは、「子どもが多様な場で多様な経験を育める地域の土壌をつくる」こと。そのためには、居場所の選択肢が、身近な範囲に豊富にあることが欠かせません。多様な活動を保ちながら、子どもがのびのびと育っていく肥沃な土壌を地域の中で実現しようとしているのです。

soilのミーティングをのぞいてみよう!

さて、ここからはミーティングでのリアルな様子と各団体の近況をお伝えします。今回お話を伺えたのは、ハートフル・ポート代表の五味真紀さん・理事の大石ゆきさん、エデュカル代表の吉村志穂美さん、心結の小柳純子さん、ブルーベル代表の込山藤尾さん・運営を担う松田京子さんの6名です。

NPO法人ハートフルポート五味さん
NPO法人ハートフルポート大石さん
株式会社エデュカル吉村さん
心結小柳さん
ブルーベル込山さん
ブルーベル松田さん

ハートフル・ポート 

「先月9月は大盛況、毎回25人ものお子さんが遊びに来てくれました」と大石さんの報告からスタート。利用者は小学生を中心に、中学生や通信制高校へ通う子も顔を出します。ここで出会った先輩が進学する姿に触発されて、不登校の中学3年生が勉強に励む姿も最近では見られるとか。「ハートフル・ポートで生まれたつながりが、子どもの人生に良い刺激になっているのを見るのは、本当に嬉しいです」と大石さんは目を細めます。

2025年からスタートした「帰宅部のぶしつ」は、月1回開かれる中学・高校生限定の居場所。参加者が気軽に集える場として定着し、この場に参加していた中学・高校生が発起人の「soil夏祭り」が8月に開催されました。企画から運営までを手がけた先輩の楽しそうな姿を見ていた小学生からは、「自分も来年やってみたい!」と意気込む声も。

「子どもの発案から企画が発展する光景を見ると、ハートフル・ポートが第3の居場所として根付いてきたことを実感します」と五味さんは活動の手応えを口にします。

エデュカル

瀬谷区阿久和東にあるエデュカルへは、瀬谷区・旭区・泉区の3区から子どもが訪れます。人気企画の一つは「おりがみ会」です。日本折紙協会認定講師のともちゃんが、季節の飾りから立体図形まで算数の要素を交えながら折り方を教えます。

最近、盛り上がりを見せているのが「みんなのかるた会」。「エデュカルの中でかるた遊びを経験した子どもが高校・大学生へ成長して、いまでは自らかるたの極意を小学生に教えているんです」と世代を超えた新しいつながりを喜ぶ吉村さん。2026年1月の「第20回瀬谷かるた大会」に向け、小学生から大学生が猛練習中です。大会への出場者の応募にも力が入っています。

「みんなのかるた会」の様子
「みんなのかるた会」の様子

心結

心結は不登校の子どもと保護者に対して、4つの居場所を運営中です。「ここゆいキッズ」は不登校の小・中学生のための場で、日々のアクティビティは参加者と相談しながら決めています。「心結cafe」では、保護者は悩みや教育などの情報を共有しながらほっと一息。ほかにも、自由な時間を過ごす「心結Freeタイム」と、保護者のご褒美時間「心結cafeプラス」で当事者に寄り添います。

中学3年生のレジン作家・ここハムちゃんによるレジンアクセサリーワークショップは、毎回満席になるほど好評です。ここハムちゃんの指導の腕もどんどん成長しているといいます。「来年度はここハムちゃんが高校へ進学するため、企画は一区切りです」と小柳さんは少し寂しげです。

レジンアクセサリーワークショップの様子
レジンアクセサリーワークショップの様子

学校に通えずにいた小学生が、最近になって「ここゆいキッズ」に参加してくれたという嬉しいエピソードも。「次の企画にも誘おうと思っています。その子が来られなくても、保護者の肩の荷が少しでも下りる場になれれば」。小柳さんのこの言葉に、全員が大きくうなずいていました。

ブルーベル

「街のおそうじ隊」として、近所の公園でゴミ拾いをしているブルーベル。手作りのsoilのたすきをかけて、地域へ活動をアピールすることも忘れません。

ゴミ拾いの様子
ゴミ拾いの様子

込山さんも松田さんも、ゴミ拾いを通じて子どもの行動に驚くことが多いそうです。「トングの使い方からゴミの見つけ方まで、何気ないことが子どもにとっては大きな冒険になるんです」と語るのは込山さん。小学校低学年の子どもが、通学路で掃除が必要な場所を教えてくれたり、学校の友だちを連れてくることも増えました。スタンプカードがいっぱいになると、年末にはささやかなプレゼントが待っています。

松田さんは子どもの気遣いに感心したとか。「掃除に夢中になるあまり、公園の利用者の邪魔にならないかを心配していました。でも子どもは利用者がいるときはその周辺を避けて、利用者が立ち去った後に掃除を再開したんです。小さい子でもこんなに配慮しながら行動できることに感動したと同時に、子どもの秘めた可能性を再認識しました」。

つながりから生まれるコラボレーション

ネットワークを育む魅力は、コラボレーションの可能性が自然と広がることです。例えば、エデュカルで開催される料理教室「キッズキッチン」は、エデュカルとハートフル・ポートとのつながりから実現できました。ハートフル・ポートで長年シェフをしていたスタッフが講師を務める人気企画です。「表現力を伸ばす方法など、講師のスキルから私も毎回多くを学んでいます」と吉村さんは話します。

「キッズキッチン」の様子
「キッズキッチン」の様子

2024年1月には、心結とハートフル・ポートがレジンワークショップを共催しました。2つの居場所へ通う子どもが交流しつつ、思い思いのキーホルダーを作る楽しい時間になったといいます。

コラボレーションの企画は、soilでの何気ないやりとりの積み重ねから始まるもの。ネットワークを築くことで、人や場所、アイデアが結びつく環境が培われ、新たな挑戦に踏み出しやすくなるのです。結果的に、子どもが新しい経験に出会える機会が地域に芽吹くことにつながります。

一人で悩まず、みんなで考える

子どもとの接し方、保護者との関わり方、今後の方向性など、活動から生まれる悩みや課題は尽きません。そうしたとき「soilという相談できる場があることが、活動を続ける支えになる」とみなさんは何度も口にしました。もちろん悩みの全てがすぐに解決できるわけではありませんが、「一人ではない」という安心感が、活動に対する前向きな姿勢を保つことに一役買っているようです。

「個人的な葛藤から思春期の子どもへのケアの方法まで、難しい課題に対してみなさんと一緒に知恵を出し合えたからこそ、中学・高校生の居場所を形にできました」。「帰宅部のぶしつ」をつくる際、soilでの悩みの共有が大きな助けになったことを大石さんは強調します。

五味さんは、ネットワークを通じて困りごとを共有する重要性について、このように語ります。

「悩み事を一人で抱え込むと視野が狭くなりがちで、活動も長くは続かないんですよね。だからこそ困ったことも成功したことも、ここではみんなで共有しています。この助け合いは担い手の中に心の余裕や新しい視点をもたらし、居場所づくりを続ける力を引き出すのだと思います」

soil報告会の様子

学校と手を取り合うために

「3年目にして、近隣の学校と信頼関係が育まれてきました」と大石さんはいいます。こんなエピソードがありました。登校班の中である子どもの様子が気がかりだった込山さんは、もともと学校とつながりがあったかけはし代表の廣瀬貴樹さんへ相談。そこから廣瀬さんと学校へ足を運び、先生と直接話すことができました。「ブルーベルだけでは学校と接点を持てなかったので、誰かと一緒に学校へ働きかけられる状況はとても心強かったです」と込山さんは当時の様子を教えてくれました。

学校と関係をつくるためには時間が必要です。soilではメンバーと一緒にアプローチして、信頼性を高めながら、関係づくりにかかる労力を分かち合ってきました。この協力があったからこそ、学校とのつながりが実現したのです。学校にとっても、soilは学校外の子どもの状況を知る重要な窓口になっています。いまでは学校の先生が定例ミーティングへ参加したり、心結へ顔を出したり、さらにはホープガーデンへ校長先生が遊びに来たこともあります。

学校の授業と連携したイベントも目下進んでいます。soilの取組を地域へ伝える「soil 子どもの居場所ネットワーク祭」を2023・2024年度に開催しました。

2025年度は、この祭りへ参加した子どものアイデアから、小学校の総合学習と結び付いた企画が動き始めています。2026年2月15日に開催予定の「soil 子どもの居場所ネットワーク祭」では、6年生のクラスが企画の段階から参加してくれることが決まりました。学校とともに、子どもの居場所づくりについて考える仕組みが整ってきました。

soilのネットワークから次の未来へ

ここまで築いてきたネットワークを生かし、それぞれの活動が次のステップへ進もうとしています。最後にsoilのメンバーが描くビジョンを紹介しましょう。

まずはエデュカルの吉村さん。

「地域の子どもの居場所をつくりながら学習支援を続けていきます。他の居場所へ通うお子さんが、エデュカル独自の漢字や数学検定を受験することは大歓迎。みなさんに情報を共有してもらいながら、子どもが楽しく学習するきっかけを地域へ散りばめていきたいです」

心結の小柳さんは、ご自身の活動について次のように話します。

「心結は2025年で4年目を迎えて、子どもの成長とともに居場所の“かたち”を変化させながら活動中です。少人数の取組であったとしても、その場を必要としてくれる人がいれば、どの地域でも居場所をつくることができるんです。こうした思いを胸に、不登校の子どもとその保護者にとって心が休まる居場所づくりを長く続けていきたいです」

ブルーベルは、ゴミ拾いを今後も実施。込山さんは、そこから多世代交流の可能性を共有します。

「子どもに人気があるご高齢の方がいらっしゃって、お互いが笑顔で会話を交わす様子は心が和みます。ゴミ拾いをきっかけに、これまで関わりが薄かった子どもと地域の大人の結びつきが広がっていくといいですね。ゴミが落ちている場所を考えたり、社会の役に立っていると感じられたり、ゴミ拾いには多様な学びが詰まっています。地域の方に「おつかれさま、えらいね」と声をかけられたときの子どもの顔はキラキラと輝いています」

ゴミ拾い中に見つけた昆虫や植物について松田さんから教えてもらうことが、子どもにとっての楽しみの一つになっているとか。松田さんも笑顔で続けます。

「草木や虫に詳しいという自分の新しい一面に気付きました。自分の知識が、子どもの楽しい時間に役立っていると思うとなんだか心が弾みます」

ゴミ拾いの価値に共感したメンバーから「これをsoil全体に展開していこう」という声が上がり、新しいコラボレーションの兆しが見えています。

地域で中学・高校生の居場所を安定的に運営することが、大石さんの目標です。

ハートフルポート大石さんが語る様子

「中学・高校生の居場所を継続するには、難しい課題が多いんです。子ども同士のトラブルが起きやすく、参加者はよく変動します。綺麗事だけでは成り立たないのがよくわかりました。だからこそ、それぞれの角度から子どもと接してきたみなさんにアドバイスをいただきながら、着実にこの場を育てていきます」

最後に、五味さんは以下のように語ります。

「ここにいるsoilのメンバーは、多様な形で子どもと関わってきました。その多様性がsoilの活動を豊かにしているんです。このリソースを用いれば、居場所づくりに挑戦したい人をさまざまな方法でサポートできると思います。家庭や学校だけに子どもの育ちを任せるのではなく、まち全体で子どもが健やかに育つ土壌をつくっていきましょう。そのためにも、子ども、地域団体、家族、学校、そして地域の人々がつながり、協力し合うネットワークをどんどん地域へ広げていくことが大切ですね」

ハートフルポート五味さんが語る様子

子どもの居場所づくりを通じて、地域の点がつながり、やがて面へ。子どもがワクワクしながら新しい経験に出会うまちをつくる。soilが地域を耕して育んだネットワークは、これからもますます成長していきます。

soilと取材担当者で記念撮影の様子

【注】soilの立ち上げの経緯について、独自のインタビュー取材に加え、横浜市旭区区政推進課「soil子どもの居場所ネットワーク~希望ヶ丘のまち全体を子どもの居場所へ」(2025)の情報を参考にしました

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