取組紹介

【協働事例】デザインの力で障がいのある方と学生、企業、社会をつなぐ

協働事例 ヨコハマフォントの取組 バナー

手描きのぬくもりが感じられる「あかいくつ」や、横浜の観光名所・日本大通りのイチョウ並木のような金魚たち……「ヨコハマフォント」の素朴で温かみのあるデザインは、障がいのある方が描いた文字や絵を、デザイナーや学生がデジタル化して販売につなげる共創プロジェクトから生まれています。

さまざまな属性の人が手を取り合ってプロダクトを作る営みでは、どのような変化やつながりが生まれているのでしょうか。多様な主体と協働しながらデジタルアートで共生社会を創る一般社団法人ヨコハマフォントの現在地とこれからを伺いました。

「自分が描いた絵がこんな形になるなんて!」アートがデザインとなるまで

ヨコハマフォントは、横浜エリアに暮らし働く障がいのある方が描いた文字や絵を、デザイナーや学生がデジタル・デザイン化しデータとして販売することで、障がいのある方の雇用の創出や社会的つながりを強化する目的のプロジェクトです。

作られたフォントやパターンは、ライセンスを購入することで企業や個人が使用できます(個人の場合、フォントは無料)。利用料は福祉事業所に還元され、障がいのある方の仕事の報酬を高める仕組みです。パターン・フォントはタオルハンカチや折り紙、名刺などグッズや実用品に活用され、グッズはショップや期間限定の展示販売会で購入することができます。

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素朴で温かみのあるデザインが人気
2025年10月に横浜高島屋に出店したショップの様子
2025年10月に横浜高島屋に出店したショップの様子

ヨコハマフォントはどのようにして生まれたのでしょうか。

「障がいのある方がやりがいや生きがい、社会とのつながりを持てる仕事を作りたいと思い、いつも活動しています」と話すのは代表の平安山(へんざん) 美春さん。ボランティアで障がいのある方と関わり、自分にできることはないかと模索するなかで、渋谷区で先駆けて展開していた「シブヤフォント」に出会ったそうです。

「アートをデジタルデザインにするご当地フォントのプロジェクトには、私がこれまで培ってきたデジタルデザイナーの技術とWEBマーケティングの経験、ワークショップデザイナーとしてのスキルが生かせると思いました」と語る平安山さんは、学校法人岩崎学園で教鞭をとっています。

2023年に一般社団法人ヨコハマフォントを設立。現在横浜市内にある多くの福祉事業所から、精神疾患や中途障がいの方、知的障がいとともにある方などさまざまな方が参加しています。およそ月に一度、施設にデザイナーや学生が訪問し、絵や折り紙、工場から出る廃材や寄付されてきた布や毛糸を活用した工作など、多様なアート活動をともに行います。できた作品をデザイナーや学生が持ち帰り、ある時は刺繍、ある時は紙製品と、その作品がもっとも生きる形を考えデザイン・商品化しているのです。

現在、障がい者アートが世間からも注目されていますが、ヨコハマフォントでは「教育事業として行っている」ことが、大きな特徴です。

学生が福祉と関わるきっかけを作る

アート活動やデザインづくりの場では、どのような動きが生まれているのでしょうか。

ヨコハマフォントで活動する学生は、普段は情報セキュリティやWEB技術について学ぶ、学校法人岩崎学園の生徒の皆さんです。活動に参加する学生の一人、新山さんは「最初は福祉のイメージがつきにくかったけれど、実際に障がい者の方と会ってみると考えが変わりました」と話します。

「私がヨコハマフォントの活動に参加したのは、平安山先生の授業がきっかけでした。ヨコハマフォントの話を聞いて、さまざまな人と関われそうだと感じ、やってみたいと思いました。これまで複数の施設を訪れて障がいのある方と話してみることで、相手の人となりがわかりました。グラフィックデザインの授業を発端に、福祉に世界が広がり、見識を広げることができました」

新山さんは今年、ゼミの一環だったヨコハマフォントの活動をサークル化し、より多くの学生が参加できる場を作っています。

ヨコハマフォントの学生の皆さんと代表の平安山さん
ヨコハマフォントの学生の皆さん。
右から増田さん、新山さん、小林さん、山田さん、佐々木さん、代表の平安山さん

同じくメンバーの佐々木さんは「ヨコハマフォントの活動では、授業を受けているだけでは関わる機会がない人と出会えます。私は最初、障がいのある方に対してどう接したらいいのだろうと迷っていましたが、実際にお会いしたら自分と変わらない人たちだとわかり、自分が作っていた壁を破れました」と話してくれました。「一緒にアート活動をすることでだんだん相手と親しくなっていくから、よりデザインを成功させたいという思いが生まれるんです。作品という大切なものを受け取る時の緊張感は、相手がこんな人だとわかるからこそ感じるんだと思っています」。

また、作品をデザインにする際に気をつけていることをメンバーの増田さんに伺いました。

「紙の作品をデジタルにするためには、元の絵のタッチを残しつつきれいに切り抜く必要があり、難しい作業です。作品はどのような商品と相性がいいかを考えるのと同時に、どんなプロダクトが世間に求められているのかも考えます」

資料を交えながら活動を説明する増田さん
取材時、資料を交えながら活動を説明する増田さん

アート活動から、デザイン、グッズの企画販売、マーケティングの実践までのヨコハマフォントの工程は、すべて学生の教育へとつながっています。

「いかに関係人口を増やせるかを大切にしています。デザインを作っても、それが売れなければライセンスフィーを支払えませんから、若い人の力を借りて、さまざまな世代やニーズに響く商品を作ります。社会貢献活動やそこで培われるコミュニケーション力は、学生の就職活動や今後の社会生活にプラスになる。共創プロジェクトは教育事業でもあるんです」と平安山さんは話します。

学校法人岩崎学園情報科学専門学校教員でヨコハマフォントの活動をサポートする並木恵祐さんは「ヨコハマフォントは、学生が社会に目を向けるきっかけになっています。社会貢献活動に関わっている人材は、企業の明確なニーズです」と言葉を添えます。

企業と協働し、作品の出口を増やしていく

ヨコハマフォントがさらなるインパクトを生み出すために取り組んでいるのが、企業との協働です。

2024年には、理念に共感した日本生命保険相互会社横浜北支社とともに、紙製クリアファイルのイラストコンテストを開催しました。ヨコハマフォントのデザインをコンテスト形式で投票し、1位のデザインで紙製クリアファイルを作成、お客様へ贈呈する取組です。

日本生命社員が顧客への訪問時に投票を呼びかけ、約4000名からの投票を集めました。この取組は多くの方へ社会課題への関心を促し、障がいのある方の雇用を創出したとともに、顧客にとっては投票結果が紙製クリアファイルとして提供され、社員にとっては自然な会話のきっかけにもなる、「三方よし」の結果を生み出しました。こちらは継続して開催することが決定しています。

日本生命2025年度紙ファイルイラストコンテスト1位「大空へ羽ばたくカモメたち」
2025年は就労支援継続B型事業所TEDの「大空へ羽ばたくカモメたち」が1位に選ばれました

また、2025年10月には、横浜高島屋の婦人服売り場にてポップアップイベントを開催。ヨコハマフォントのグラフィックアートをプリントしたTシャツやミニタオルなどの販売、オリジナル折り紙を使ったワークショップを開催しました。

横浜高島屋でのポップアップイベントの様子
横浜高島屋でのポップアップイベントには1週間で約200名以上の方が来場しました

一人ひとりが福祉に主体的に関わることで、横浜を住みやすい地域に育てたい

「ヨコハマフォントは、障がい者アートをただ扱っているわけではありません。学生やデザイナー、地域の企業が実際に施設に出向く機会を作ることで『相手に自分は何ができるのか』を具体的に考えるきっかけを作っています。一人ひとりが主体的に考えて動き、つながることで、横浜がより住みやすい地域になっていくのではないでしょうか」と平安山さん。

「私は両親に『自分ができることをやりなさい』と育てられ、歳の離れた3人の兄姉に見守られながら成長しました。これまで仕事もPTAも地域活動も、関心のあることは全部やりたいと挑戦できるような恵まれた環境でした。だから人生の後半は、自分の技術や知識を、地域や社会に還元していきたいと思っています。私が生まれ育った横浜を、誰もが自分らしく安心して暮らせる街に発展させていきたいです」とこれからの展望を話してくれました。

今後の展望を語る平安山さん
今後の展望を語る平安山さん

編集後記

人のぬくもりが伝わってくるヨコハマフォントのデザインの奥には、顔の見える関係から生まれた互いを生かし合う仕組みがありました。

障がいのある方と学生、デザイナー、企業……世代や属性が違う人々がともにプロセスを重ねることは、時間がかかる営みかもしれません。しかし「実際に会う」「実際にやる」という一つひとつの経験が、これからを担う若い世代をじっくりと育てています。互いへの思いやりを身につけた世代が創る社会は、きっと誰もが生きやすい地域に近づいていくことでしょう。

市民や企業、行政と、さらに広く協働していくであろうヨコハマフォントの活躍から、これからも目が離せません。

今後も横浜市市民協働推進センターでは、市内各地のさまざまな協働事例を紹介してまいります。

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