With コロナ時代の市民活動 Report
取材日:2020.7.17
1 団体概要
代表の内田さんが、ご自身の産後の育児での悩みを通じて感じられた「産前産後の継続的なサポートが必要」という思いから、助産師さん探しを始められ、その中で助産師の宮崎さんとの出会いをきっかけに、2015年に設立した任意団体です。
ママ・パパ・赤ちゃんに「smile」をたくさん届けるために、産後ケア(助産師と産後ヘルパー訪問)、母乳相談、様々なイベントなどを行っています。産前産後のママ達が孤立しないよう交流する機会を増やし、地域で子育てができる環境をつくっていくために活動しています。
7月17日、代表の内田さん、助産師の宮崎さん、助産師(兼大学教員)の永田さんを訪ね、お話を伺いました。
団体の特徴
●団体には、助産師をはじめ、産前産後の女性に寄り添い、家事や育児を支える専門家「ドゥーラ」・保育士・ヨガインストラクター・管理栄養士など、様々な専門職がいて、助産師だけでないところが強みです。
●メンバーは全員複業です。代表の内田さんはデザイナーで、名刺やチラシも内田さんが作っています。資金は0ですが、皆が持ち場を生かし、複業ながらでも少しずつ前に進んでいるそうです。
↑向かって左から、ドゥーラ 菅原さん、・助産師 宮崎さん、(ママさん)、ヨガインストラクター IKUMIさん
2 コロナ後の新たな活動
⑴ 非常事態宣言を受けて
活動の休止についてお聞きしたところ、「それはないです。逆にキックオフでした。」と意外なお答えをいただきました。
以前からの活動の一つであった、空きスペースを活用し、助産師がお母さんの悩みを聞きながら、お昼寝をしてもらう「眠る会」については、地域のチカラ補助金を活用して開催する予定でしたが、残念ながらコロナの影響で流れてしまったそうです。
そんな中、新たに始められたのがオンラインでの両親教室でした。
非常事態宣言を受けて、「これは妊婦さんは大変なはず。私たちに出来ることは何だろう。」と考え、元々知っていた「両親教室」が区役所では開催できなくなっており、これならすぐに出来ると思い、取り組まれたそうです。
通常、場所を借り、大人数でとなると、なかなか人が集まらないという問題があります。ですが、団体のコアメンバーの一人である助産師の永田さんは大学の教員もされており、全教科オンラインでの授業をすでに開講していたため、オンラインについてのノウハウがあり、ハードルが低かったそうです。結果、オンライン開催への切り替えを身軽に出来たというのが、コロナ下でも早い段階(4月26日~)から、始められた理由だったとお話されていました。
(コアメンバーの皆さんの専門分野でのご活躍が生かされた、見事な連携プレーだと感心しました。)
⑵ 新たな活動(オンライン両親教室の立ち上げ後のお話)
オンラインでの両親教室は、5組限定。少人数での開催について、詳細を教えていただきました。
「(永田さん)5組という少人数限定にこだわっているのは、『コロナ禍で交流が出来ない』『妊婦健診に行ってもパパが同行出来ず、パパが蚊帳の外になっている』など、交流のニーズが高いからです。後半30分を先輩家庭をゲストで招いた交流タイムにしており、そこで皆が交流することで、知識の提供にプラスして心理的なサポート(=つながった感)が生まれます。さらに、Zoomでも、助産師の宮崎さんの人柄もあり、ゆったりした雰囲気の中で質問でき、そして温かい回答をもらえることが、安心感につながっていると思います。」
「(宮崎さん)少人数だからこそ、沢山の質問にも答えられるメリットがありますよね。大人数だと講義だけで終わってしまうので。」
「(内田さん)最近、両親教室の参加者にLINEの登録を促していますが、1時間オンラインでつながっただけなのに、『生まれました』の報告がきてすごく感動しました。中でも驚いたのが、入院中で助産師さんに聞けばいいのに、こちらに聞いてきたこと。それも両親教室でつながった感があるからこそ、分娩中や産後も相談してくれる関係性が築けたと思います。」
100smileでは今回のオンラインでの両親教室について、「コロナで産後も孤立しがちな環境の中で、両親教室はZoomですが、その後LINE上でサポートして行けます。」と、コロナ下での今回の新たな活動を『チャンス』として前向きに捉えられていました。
●スタッフ間の連携
対面で交通費や時間を割かなくても、自宅で、オンライン上でそれぞれのノウハウを交換していけるとのことです。(コロナ禍での活動にあたり、オンラインがあって本当に良かったそうです。)
↑笑顔が可愛らしい助産師の宮崎さん
●利用者の声
両親教室後にアンケートを取っており、参加者の大半が5段階中「大変満足」か「満足」をあげている一方で、自由記載欄では、思っていた以上に「不安感」「孤独感」を感じている妊婦さんが多かったそうです。
出産の立会いも禁止されていたり(最近は解除されている病院も多いそうですが)、先行きが分からないことは妊婦さんを不安にさせてしまう。オンランでの参加者との会話を通じて、思っていた以上に「不安感」「孤独感」が高い事を、ひしひしと感じられていました。
●コロナ禍での利用者のニーズ
コロナ後の活動の中、0歳児の赤ちゃんを持つママや支援者さんから「両親教室は増えてきたが、産後のサポートが足りてない」という話を聞かれたそうです。
そこで、他の団体とのコラボレーションで「安全に事故予防」や「ヨガ」をテーマにした、オンラインでのママ講座(約1時間)を開催しました。(現在はメンバーとなった内田さんのお知り合いの元保育士の方がヨガインストラクターを担当されたそうです。ここでも、内田さんから広がる「つながり」を感じました。)
↑オンラインママ講座のイメージ
●オンラインのメリット
【メリット】
・全国どこでもつながれる。(福岡県や千葉県から参加した方も。)両親教室の開催にあたり、助っ人の助産師さんが山口県から参加出来たりと、開催する側の自由度も高い。
・コロナで産後も孤立しがちな環境の中で、両親教室はZoomだが、その後LINEでつながることで、継続したサポートが可能。
・「デメリットをどうやってメリットにするか?」という考えを基に、次の訪問につなげていくオンラインでの取り組みとなるよう工夫されているそうです。
3 課題・展望
(1)課題
現在ほとんどボランティアのような形で活動していますが、行政ほどの低価格も難しく、産後ケアをやりたくても費用的になかなかお客さんがついてこないところが、以前からの大きな悩みだったそうです。色々考えられた結果、「行政も子育て支援団体も登録しやすい、定額制のシステムを立ち上げる事で、プラットホームにしたら皆が利用出来るのでは」と考えられたのが、新たなWEBサイトの立ち上げです。
この新たなWEBサイトについても、お話を伺いました。
●WEBサイトの立ち上げに向けて
「産前産後のトータル的なサポートを、オンラインを活用しながらできたらと思います。」と、代表の内田さん。
今回立ち上げるWEBサイトは、産前産後ケアを「したい」人が登録をして、「受けたい」人が検索できるそうで、「まさにマッチングです。」と、内田さんのご主人が分かりやすく説明してくださいました。
今後については、「新たなシステムを通じて、定額制のシステム利用料という形で仲介できたらと思っています。詳細については検討している段階ですが、行政と子育て団体の複合サイトになって行ければと考えています。」というお話も伺いました。
コロナ禍で日常生活はじめ、社会全体が大きく変化していく中、ママ達も利用しやすいプラットホームを目指し、現在、内田さんのご主人の協力の元、今秋のシステム稼働に向け、準備を進められています。
さらに、コロナ禍でオンラインでの両親教室を始めたことで、妊娠の時から認知が出来始めてきている事もあり、団体の今後に繋がる取組と位置づけて考えられているそうです。
(2)展望
助産師の宮崎さんにお聞きした話では、オンラインが主流になってきている一方で、実際に会いたいと思うママ達も増えつつあるそうです。
「(永田さん)バランスが大切ですが、対面頼りだとコロナなどの災害が起きた時に、0になってしまう。オンラインをベースに感染状況が落ち着いたら対面でもと考えています。」
「(内田さん)店舗を設けていない分、対面サポートも大人数ではなく個々が行くので、今のリスク下でもやりやすいと思う。」
コロナの影響を考慮しつつ、ニーズに合わせて、要請があれば家庭訪問もできるような体制にしているそうです。
対面とオンラインの「バランス」を保ちながら活動をして行くというお話の中に、コロナ後の活動のヒントが見えてきました。
最後に、一歩先を見据えたお話も伺いました。
「コロナをきっかけに、ママ達の価値観も大きく変わっていくと思います。女性で、様々なライフスタイルがある中、定職(正規職員)は難しいが、活躍できるといいと思う人がたくさんいるのではないかと思う。子育てで一時的に仕事を控えている人がいる中で、このシステム(WEBシステム)ができ上がることで、産前産後の期間に自分の得意分野を生かして活動できる場を提供できる団体になって行ければと思っています。」
(取材日:2020年7月17日 取材者:市民局地域活動推進課 木村(担当係長)、森)
【産前産後100smile】
神奈川県横浜市港北区篠原北
※拠点の詳しい住所は要問い合わせ
TEL 050-5275-5178
E-mail: uchida100smile@gmail.com
産前産後100smile FACEBOOKページ
≪取材後記≫(市民局地域活動推進課)
コロナで多くの団体が活動停止となり、今後の再開について悩まれる団体が多い中、コロナをきっかけに「新たな活動がスタート出来た。チャンスだった。」というお話をお聞きし、展開の早さや前向きな姿勢、何より皆さんのパワーに取材者は「すごい・・!」と何度も驚きの声が出てしまいました。
途中、「なぜ無償なのにこんなに頑張れているのか」という話になり、そこで宮崎さん、永田さんがお話されていたのは、団体を設立された内田さんの「産後はサポートが絶対必要。困っているママ達を継続的にサポートしたい。」という思いでした。そこから、「(宮崎さん)助産師として出来ることは何でもしたい。」「(永田さん)両親教室の運営も正直すごく労力がかかるが、内田さんの思いがすごい。」と、現在の活動につながっています。団体の皆さんの前向きなパワーがどこから来ているのか、興味深く聞かせていただきました。
対面とオンラインの「バランス」を保ちながら活動していくというお話も印象的でした。色々なお話を伺い、コロナ後の新たな活動(手法)のヒントとして大変参考になりました。